終活やエンディングノートなど人生の最期をみすえた活動について、関心が高まっている。久しく続く断捨離ブームとあいまって、持ち物の整理などは盛んに行われているようだ。ところが、終活のなかの難題、相続に関することは、先送りされているケースが多い。
本書『相続の問題は不動産の問題です!』(南雲堂)は、金銭と異なり分割がしにくい場合が多い不動産は、相続の際に厄介な問題になることが多いと指摘。禍根を残さないためには事前の対策が重要として、終活のメーンとして捉えるよう促している。
著者は30年以上にわたり不動産業に携わり、その事業経験から相続問題に取り組むようになった。不動産と税の知識に精通し、相続対策の専門家として、大手生命会社や、銀行のセミナー講師や個別相談会の相談員を務めている。不動産には相続税のようには割り切れない問題があり、実際の相続の問題のほとんどは「不動産の問題」という。
その問題の本質を広く知ってもらいたいと考えたのが本書刊行の動機。「円満な相続のために相続発生後にできる行動は1割程度。残りの9割は、相続が起こる前にしかできないことばかりだが、事前対策の重要性を感じている人はまだまだ少なく、実際に行動するのは、それが必要な人の3割程度にとどまっている」という。
本書には、著者が経験したさまざまな例が紹介されている。残された者の生活や面倒を考えれば、最期を迎えた人の相続についての終活がしっかりしていればと、ひとごとながら考えさせられる。
たとえば、夫に先立たれた妻(63)のケース。大きな遺産は自宅(土地・建物)だけで、子どもはおらず、妻は夫が残した家に住み続けたいと考えていた。ところが、もう15年も付き合いが途絶えていた夫の妹が突然、相続の権利があると主張。妻にその権利を買い取る資金はなく家を共有することになったという。
妻は当初、義妹にそんな権利があるのかと信じられなかったが確認すると、夫妻に子どもがいなかったために夫の妹にも法定相続分が認められることが分かった。夫が遺言書をつくり「全財産を妻へ相続させる」と書いておけば、遺言に優先する「遺留分」は義妹には認められないので、自宅が共有財産になかったのだ。共有となったために、一人の判断で処分することもできなくなり、妻は老後に問題をかかえることになってしまった。
遺産争い的な問題のほか、現代ならではの相続をめぐる問題は不動産の「負動産化」だという。相続しても資産としてプラスにならず、むしろお金を払って手放した方が長期的には得になる場合が増えてきているのだ。
長野県南部の市街地、JR駅からは遠くはない50坪の土地に1975年築の住宅。ここで一人暮らしをしていた母親が亡くなり、子どもたちから処分の依頼を受けた著者が500万円で売りに出したが買い手が現われず、値下げをしてもだめ。ついには隣家の人に100万円を渡して引き取ってもらったという。市街地でそれなりとなる固定資産税を払い、管理費や修繕費を充てて維持するよりは現金を添えて手放した方がマシと判断したのだ。
こうしたことは東京近郊でもみられるようになっており、埼玉県東部の住宅地にあった81年築の物件は800万円で売りに出したが最終的には100万円に。千葉県北西部の90年築の物件は購入時4000万円したものが売却時には300万円だったという。
相続の対象となった不動産が安価でも売却できて利用されることになればまだいいのかもしれない。その不動産が周囲に家もまったくない原野で固定資産税もかかっていないような物件ならどうだろう。こうした場合、相続として受け取るけど手続きとして相続登記はしないという人も。あるいは、共有による相続が重ねられ、そのことはいま、住宅地で持ち主の不明の空き家問題として浮上している。この欄で以前紹介した「相続の落とし穴! 共有名義不動産」で指摘されていた。
相続というと、する側もされる側もひとごとのようでもあり、コトの性質から先送りされがちだが、年齢に関係なく、自分にかかわる不動産があれば登記などの確認から始めることを勧めている。
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