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ドン・ファン事件で相続が気になる...共有はイヤよ

相続の落とし穴! 共有名義不動産

 「紀州のドン・ファン」として知られた資産家男性の死亡をめぐる報道が連日メディアをにぎわしている。遺産の行方について見方を示すものも少なくない。「事件」が未解決な現状では、相続財産は法定相続分による割合で相続人の間の共有となっているが、落ち着いた段階で、遺産分割協議が行われ、最終的に相続人個人の相続財産が確定する運びだ。

 資産家男性のケースでは、スムーズな相続が疑問視されるだけに関心が高まっているとみられるが、相続については一般的にも年々トラブルが増加している。またトラブルを避ける意味もあって、相続開始直後の「共有」状態が手付かずのまま放置され、それがその後、さらに面倒なトラブルの元になり、果ては社会問題に発展するなど負のスパイラル状態になっている。

将来に必ず禍根を残す

 相続で生じた不動産の「共有」は、それでまるく収まったように感じになるため、その後の分割をしないままになりがちだ。これが将来に禍根を残す。親子で、兄弟で、姉妹で、あるいはほかの親族と共有しながら、共有者の一人が持分を売却してしまい、他の共有者の不動産の価値が下がるなどはまだいい方で、たとえば姉や妹の夫などの介入で裁判になることも珍しくないという。

 最新刊『相続の落とし穴! 共有名義不動産』(合同フォレスト)は、そうした例を数々紹介し、不動産を共有している場合は、トラブルの可能性があることを認識すべきと注意を促す。著者は、業界で唯一という共有不動産仲介会社を創業した相続の専門家。相続アドバイザーとしてNPO法人から認定を得ている。早い段階での対策を立てることの大切さを知ってほしいと本書の出版を企画したという。

 最高裁判所が公開している司法統計によると、全国の家庭裁判所で争われる「遺産分割審判」や「遺産分割調停」の件数は年を追って増加傾向にある。本書によると、著者の会社で受ける共有をめぐっての相談件数は年間500件を超え、こちらも年々増えているという。その内容もさまざまだ。

 ありがちなのは、相続人の家族同士が「仲が良いから詳しく決めなくても大丈夫」とあいまいにして、後に面倒なことになることだ。紹介されている例の一つは、女性が「父親が亡くなり、母と姉と私の3人で相続」した場合。後に、相談者の女性の義兄、つまり姉の夫が関与を深め、共有名義の土地の独占をもくろんで母親を取り込み、女性に対してはその持分(全体の4分の1)については、市場価値の200分の1の値段なら買うなど「無慈悲な回答」をするばかりだったという。

 このケースでは著者は、第三者の投資家に市場価格を下回るものの女性の希望額で彼女の持ち分を購入してもらい、女性の相談については解決したという。

 事務的にコトを運ぶべき相続。遺言などがあれば別だが、家族間ではなかなか徹しきれない。「基本は家族の誰かが損をする」と著者。「いずれにしろ、共有関係でいることに大きなメリットはない」と断言する。

空き家、空き地の問題も

 相続を経るごとに「共有」が繰り返されて、そのツケとなって近年問題化しているのが所有者不明土地だ。きちんと登記されなかった土地は共有名義となり、代を重ねるごとに共有者は増え、その数は何十人という状況に。共有者の一人が、あるいは、目をつけた業者や公的機関が、いざその土地を使おうにも、すべての共有者から承諾を得なければならない。所在を確認こともままならず、事実上は所有者不明状態になってしまう。

 本書が引用している国土交通省の発表によると、所有者不明土地の総面積は「2017年時点で九州の面積に匹敵」。40年ごろには北海道と同じ面積に及ぶと予想されているという。

 所有者不明土地が引き起こす最大の問題は、道路新設や災害対策などの公共事業への影響だ。持ち主がだれだから分からない土地のため、用地取得が進まず道路が途中で行き止まりになってしまう。地方にいくほど所有者不明土地の山、あるいは森林規模で点在し、さらに用地取得を難しくしているという。また、災害で崩落した場所を整備しようとして、持ち主の特定に手間取り着手できないなどの事例もあるという。

 市街地、住宅地での空き家や空き地も問題化している。愛媛、広島両県をまたいで逃亡を続けた脱走受刑者は逃亡中は空き家などに寝泊まりしていたとみられるが、持ち主が分からず家の内部を調べられず、このことが脱走を長期化させた原因の一つとみられている

 空き家はまた、付近の環境の悪化を招いたり、放火の標的になりやすいなどの問題がある。しかし、共有であるがために処分のリーダーシップがとられなかったり、更地にすることで固定資産税が一気に増えてしまうことなどから、解体に共有者全員の同意を得ることが困難になっている。だが著者は、放火あるいは失火で延焼すれば賠償騒ぎに発展する可能性を指摘。また、各自治体で空き家対策の条例が整備されており、倒壊可能性のある空き家の解体について代執行がすすめられ、所有者にはその費用の支払い請求が回ってくる流れがあることにも触れ、空き家放置にメリットなしと説く。

 「共有」に覚えのある人は「落とし穴」にはまらぬうちに、対策を考えるべきと著者は繰り返している。

  • 書名 相続の落とし穴! 共有名義不動産
  • サブタイトル想い出がきれいなうちにトラブル解決
  • 監修・編集・著者名松原昌洙 (著)
  • 出版社名合同フォレスト
  • 出版年月日2018年6月10日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数四六判・230ページ
  • ISBN9784772661102
 

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