「逃げ得」や「逃げ恥」は聞いたことがあったが、「逃げ地図」は知らなかった。本書『災害から命を守る 「逃げ地図」づくり』(ぎょうせい)は、その「逃げ地図」についての分かりやすい解説書だ。自然災害に襲われたとき、どの道を使って逃げるか。そのための地図づくりのノウハウを伝授している。
「逃げ地図」は東日本大震災をきっかけに生まれた。最初に動き出したのは日建設計のボランティア部。同社は東京スカイツリーや、さいたまスーパーアリーナなど大規模な施設を設計している会社だ。被災地の知人から「瓦礫処理のボランティアはいいから、専門家しかできないことを何か考えてほしい」といわれて、たどり着いたのがこのマップづくりだ。
本業でも大規模施設を設計するときに、常に「避難経路」のことは考えているから重なる部分があった。そこに明治大学山本俊哉研究室と千葉大学木下勇研究室が加わり、2012年5月に共同研究を開始。その後、一般社団法人「子ども安全まちづくりパートナーズ」も加わり、「逃げ地図」づくりを全国展開している。
本書では誰でも、どの地域でもできる「逃げ地図」のつくり方、その効果、地域、学校でやる場合、さまざまなパターンの「逃げ地図」づくりのポイントなどが解説されている。コラムでは全国各地の多様な「逃げ地図」づくり実践者(教員、議員、PTAなど)の生の声も収録している。
これまでに全国18都道府県36市町村45地区と、全国15小中高で逃げ地図づくりのワークショップが開催されているそうだ。このプロジェクトを担う日建設計ボランティア部など4団体は2018年の日本建築学会教育賞(教育貢献)を受賞している。
逃げ地図づくりは簡単だ。必要なものは白地図と色鉛筆と皮ひも。避難場所などの避難目標地点からの距離を徒歩3分ごとに色鉛筆の色を分けながら明示していく。皮ひもは距離を図る物差し用。曲がった道でも対応できる。
避難場所を変えれば、地図も変わる。例えば南海トラフ巨大地震で大津波が予測されている高知県黒潮町。高台に避難する場合と、建設が計画されていた津波避難タワーに逃げる場合の両方の地図を作製した。夜間雨天時などのケースも制作、昼間の晴天時の8割のスピードでの避難を想定している。
海に近い鎌倉市の第一中学校では毎年、中学一年生全員が自治会などの協力を得て逃げ地図づくりをしているという。
本書は以下の構成。
第1章 逃げ地図のつくり方―基本編 第2章 逃げ地図づくりのはじめかた―地域編 第3章 逃げ地図づくりのはじめかた―学校編 第4章 災害ごとで見る逃げ地図のつくりかた―事例編 ・津波 ・土砂災害 ・洪水 ・地震火事 第5章 逃げ地図のその先 ・逃げ地図を活かした遊びながら学ぶ防災 ・逃げ地図のデジタル化 ・逃げ地図づくりから地区防災計画へ 第6章 逃げ地図づくりのすゝめ
周知のように東日本大震災では、石巻市立大川小学校で多数が津波の犠牲になり、2019年10月に民事訴訟で自治体側の敗訴が確定した。先例がある以上、自治体や学校側はふだんから相当の取り組みをすることが半ば義務付けられているともいえる。本書はその一助となるだろう。
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