北海道は17世紀以降、火山の噴火や津波にたびたび見舞われてきた。しかし、一般には大きな地震は少ない場所だと思われていた。2017年12月、政府の地震調査委員会が、北海道東部の十勝沖から択捉島沖の太平洋に横たわる千島海溝で、マグニチュード(M)9級の超巨大地震が今後30年以内に7~40%の確率で起きるとの予測を公表していたが、札幌周辺ではさほどの警戒感がなかったと思われる。ところが2018年9月6日に起きた「北海道胆振東部地震(M6.7)」は震度7を北海道で初めて記録、他の地域と同じように地震に対する相当の警戒が必要であることを知らしめた。
実は、今回の地震の前にあった犠牲者を伴う北海道の大地震、15年前の十勝沖地震を受けて刊行された『北海道の地震と津波』(北海道新聞社)ですでに編著者の専門家らが、北海道に地震が少ないことは迷信であり、札幌周辺でも油断しないよう呼びかけていた。
北海道の地震活動に関する歴史的な文献資料というと、徳川家康に同地の支配を認められた松前藩による1600年以降の史料に限定され、地域的にも道南に限られていたため、近年の北海道開発は過去の地震履歴を知らないままに進められたという。「そのため、明治以降の経験がすべてであると思い込み『北海道は地震が少ない』と言われてさえいた」ものだ。
今回の胆振東部地震では40人以上が亡くなったが、2003年9月26日の「十勝沖地震(M8.0)」でも死者1、行方不明者1の犠牲者が出ている。同地震は最大震度6弱を記録、今回の地震で被害が大きかった厚真町で震度5弱、札幌市内でも震度4を記録した。本書は、同地震を受け06年4月から週1回、1年間にわたり、北海道新聞に連載された特集を書籍化したもの。連載終了後の07年7月に起きた中越沖地震、11年3月の東日本大震災についての「知見と解説」が、本書には加えられている。
16世紀以前の地震についての文献資料に乏しい北海道だが、開発開始当初はいわば手付かずの土地だっただけに、実地の調査やデータ集めには適していたようだ。本書によると北海道での地震計による観測は日本でも極めて早く、1881年(明治14年)に函館でスタート。1923年(大正14年)の関東大震災を受けて全国的に地震観測網が整備され、北海道では早くも25年から札幌測候所(現札幌管区気象台)による組織的地震観測が本格的に稼働を始めたという。
こうして施設・設備による観測、札幌などの都市開発に先駆けて行われた地盤調査などで、専門家の間では北海道は地震が少なくない土地であることが分かったという。
今回の胆振東部地震では札幌市が停電や液状化など大きな被害に見舞われた。市内の一部での液状化は、15年前の十勝沖地震でも発生している。札幌市の液状化体質は1980年代になって判明したという。
バブル期の同年代、札幌では高層建物の建築が増大。これに伴い、立地場所の地盤調査と遺跡を確認するための発掘調査が義務付けられた。その結果、市内の多くの場所で液状化の痕跡が発見された。それらは、1739年に起きた、札幌北部、支笏湖の北にある樽前山の噴火により積もった火山灰の層を突き抜けて、明治初頭土壌によって覆われていた。揺れで軟弱になる火山灰が地層を構成していれば液状化は宿命的になる。1834年に石狩地方で起きた地震でも多くの地点で液状化が発生していたことが分かったという。
その後にさらに行われた調査で、2000年前までに遡ると計4回の液状化現象があったことが分かった。樽前山噴火以前から液状化は体質的なものと考えられ、本書によると「これは、間違いなく札幌直下の大地震が繰り返し発生したことを示すもの」であり、札幌市では、液状化発生レベルの震度5強~6程度の直下型に備える必要があるということが、すでに本書で指摘されていた。
こうしたことから調査や観測から、同市直下に「南北に軸を持つ凹凸」があることが分かり、それらは、繰り返す地震の結果成長した地震断層と想定されているという。
本書は北海道大学理学部地震予知観測地域センターなどを務めた笠原稔氏、同大大学院工学研究科元教授の鏡味洋史氏、同大工学研究科元教授の笹谷努氏、同大理学研究院附属地震火山研究観測センター教授、谷岡勇市郎氏ら4人が編著者にあたり、ほか8人の地震研究者らが執筆している。この機会に改めて読み直すに値する貴重な一冊といえる。
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