ネットで「NHK」「戦争」と検索すると、過去のNHKの特別番組が山のように出てくる。シリーズ化され、アーカイブ化されたものも少なくない。
『本土空襲 全記録』(株式会社KADOKAWA)は2017年8月に放送され評判を呼んだNHK特番をもとに単行本化したものだ。本書にも「NHKスペシャル 戦争の真実シリーズ1」のナンバーが振られている。「なぜ空襲がエスカレートしたのか」というキャッチも添えられている。
今回もNHKが得意の海外取材が充実している。米軍戦闘機につけられていた膨大なカメラ映像を入手したのだ。さらに米国の国立公文書館に保管されていた機密文書「戦闘報告書」を掘り起こし、丹念に解読した。それらをもとに改めて本土大空襲の全容を振りかえり、本土空襲の回数は、これまでよりもはるかに多い約2000回。投下された焼夷弾は約2040万発、撃ち込まれた銃弾は約850万発、犠牲者は、確実な数字で45万9564人としている。このあたりは、現時点でも最も正確な数字となるに違いない。
2万ページもある「戦闘報告書」の解読は大変な難作業だったという。報告書を1ページずつスキャンし、内容を読み込んでリスト化。さらにそれを他の史料と矛盾がないか突き詰めていく。本来は研究者がやるべき仕事だろう。いや、先の戦争の様々な局面については、すでにNHK自身が研究者になっている一例かもしれない。
本土空襲が本格的にはじまったのは1944年11月。それにはB29の実戦配備が大きかった。4年の歳月をかけ、原爆の1.5倍の開発費で完成した宿願の大型爆撃機。それまでの爆撃機よりはるかに大きく、航続距離は約2倍の6000キロ。7月にはすでにサイパン攻略。そこから東京までは約2400キロだから往復できる。日本の戦闘機が到達できない高高度を飛べる利点もある。
これで一気に日本を追い込むぞ、と米軍は目標施設への空襲をくり返す。ところが初期の命中率は7%に過ぎなかった。1万メートルの高高度から爆弾を落とすので、気流などに影響され、どうしても目標を外してしまうのだ。
戦争とはいえ、かつて空爆には一定のルールがあった。軍事施設に限る、というものだ。市民を巻き込む無差別爆撃は避ける。ところが命中率の低さが米国内で問題となり、B29は無差別爆撃に踏み切らざるを得なくなる。45年3月、硫黄島玉砕。そこから新たに航続距離は短いが、最新鋭の戦闘機P-51が日本攻撃に参加できるようになった。B29はP-51を護衛に引き連れ、低高度で本土爆撃をくり返す。
米軍の本土空襲による犠牲者数は、トータルでは広島、長崎の犠牲者を上回る。「非人道的」と酷さがしばしば問題になるが、本書はその背景などをいくつか列挙する。
まず「無差別」ということについて。これはすでに日本が、中国との戦争の中で、重慶爆撃でやっていたこと。200回以上の爆撃で1万人以上の犠牲者を出している。独英戦でも双方がやっていた。つまりこの段階では「ルール」がなし崩しになっていた。加えて撃墜された米軍パイロットに対する日本側の扱いのひどさが米国内で問題になっていた。捕虜にもかかわらず殺されている。復讐しよう、という声が高まっていた。さらに日本では45年に入って総動員体制が強化、6月には「義勇兵役法」ができたことが裏目に出た。男子は15歳以上が義勇兵に。志願すればさらに若年でも戦闘に加わることができる。これについて米軍は「全人口が武装予備軍」「日本に民間人はいない」とレポート、無差別攻撃の正当化に弾みをつけた。実際、6月中旬以降、空襲の犠牲者が激増する。
米軍内の覇権争いもあった。すでに45年11月の予定で米陸軍地上部隊が九州に上陸する「オリンピック作戦」が決まっていた。陸軍の航空軍は、その前に日本を空爆で降伏させようと本土空襲に拍車をかけた。「地上」と「空」の手柄争いだ。成果が認められたのか、戦後の47年、陸軍の一部だった航空軍は「米国空軍」として念願の独立を果たした。
本土空襲については、これまで被害地域ごとに調査が行われてきた。市民団体なども独自に調べてきた。本書には取材協力者として工藤洋三氏の名前も掲載されている。長年、原爆や空襲の資料を精力的に収集してきた人として知られる。一方で本書は、国が70年以上たった現在も、信頼に足る網羅的な調査をしていないと、怠慢を指摘している。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?