読むべき本、見逃していない?

台風で「命を守る行動」とはどういう行動なのか?

  • 書名 命を守る水害読本
  • 監修・編集・著者名命を守る水害読本編集委員会 著
  • 出版社名毎日新聞出版
  • 出版年月日2017年8月 2日
  • 定価本体1852円+税
  • 判型・ページ数A4判 ・192ページ
  • ISBN9784620324524

 「命を守る行動をしてください」――アナウンサーが繰り返し注意を呼び掛けていた。東日本全域に甚大な被害をもたらした台風19号。死者・行方不明者は90人超、64河川の111か所が決壊した(2019年10月17日現在)。いったいどうすれば命が守れるのか。そこで手にしたのが本書『命を守る水害読本』(毎日新聞出版)。犠牲者を悼み被災地の復旧を祈りつつ、改めて「命を守る」手立てを考えたい。

同じような河川災害が繰り返されている

 類書はいくつかあるが、本書の特徴は写真や図が多くて視覚的に理解できること。サイズがA4の大判なので見やすい。図鑑やグラフ雑誌に近い体裁だ。中学や高校の図書室に置かれることを想定して編集されたのかもしれない。巻頭には「逃げ遅れによる悲劇を防ぐために」という見出しで、国土交通大臣と栃木県知事の対談が掲載されている。東京都心部を洪水が襲い、「円・国債・株」が大暴落するという設定の小説『大暴落 ガラ』を刊行した作家・幸田真音さんへの特別インタビューもある。

 全体は5章に分かれている。「第I章 水害レポート」「第Ⅱ章 気象の基礎知識」「第Ⅲ章 豪雨に備える」「第Ⅳ章 はじめての避難」「第Ⅴ章 減災への取り組み」という構成だ。章ごとにさらに細かく各論的な項目が並んでいる。

 今回の台風との関連で、まず目を引くのは32~33ページの見開き写真だ。15年9月の関東・東北豪雨による「茨城県鬼怒川決壊」の模様を空撮で伝えている。見開き写真の左側部分には蛇行しながら流れる鬼怒川。堤防が切れていることがわかる。右側に広がる住宅街は川からあふれた泥水で一面が覆われている。濁流に抗して踏ん張る「白い家」の映像を覚えている人も多いことだろう。写真現場の茨城県常総市は市域の3分の1が浸水したという。

 この写真を見ると、何度も同じような河川災害が繰り返されていることに、誰しも暗然とするに違いない。

洪水ハザードマップを見たことがない

 続いて本書で印象に残るのは104ページの「洪水ハザードマップ」の話だ。市町村長が作成、ホームページで公表されている。洪水浸水想定区域が色分けされ、避難場所、避難経路が図示されている。自宅周辺がどうなっているのか、あらかじめ確認しておくとよいだろう。

 ところが、上記の15年9月の関東・東北豪雨の被災地域では、その後の住民調査(中央大学河川・水文研究室)によると、「ハザードマップを知らない・見たことがない」との回答が6割を占めたという。せっかくのハザードマップが、宝の持ち腐れになっている。

 この関東・東北豪雨では、鬼怒川が氾濫したのは、国の河川管理に不備があったためだとして、被災住民が国に損害賠償を求めた訴訟を起こしている。河川氾濫で行政の管理責任はどこまで追及できるのか。ネットで調べると、河川氾濫をめぐる訴訟はいくつもあるが、1974年に起きた「多摩川水害」の訴訟などを例外として、住民側勝訴のケースはほとんどないようだ。

 ハザードマップで危険地区を公表済み→避難場所やルートも公表済み→台風襲来時は各種警報発令で危険を告知済み、ということで、それでも自宅にとどまって被害に遭った場合は当然ながら自己責任の度合いがいちだんと高まる。「命を守る行動を」という呼びかけは、文字通り、家屋や家財道具は犠牲にしても、命だけは守れ、という呼びかけであり、裏読みすれば、「行政は危険をお知らせしました」「あとは自己責任ですよ」という役所の「アリバイづくり」といえなくもない。住民側は「命を守る行動」という文言を、そのようにシビアに受け止めておく必要があるだろう。

 結局のところ、どうすれば命を守れるのか。仮にハザードマップでリスクを察知しても、なかなか個人レベルでは対応ができない。せいぜい避難場所の確認ぐらい。実際に被害が起きても、過去の訴訟例を見ると、行政の責任は極めて限定的なので、気分が暗くなる。できることは、家を買ったり、引っ越したりする前にハザードマップをチェックすることぐらいか。

スイスは1000年に一度の水害に対応

 本書は冒頭で、水害と地震の違いについて書いている。地震は突発だが、水害は降雨、河川増水、流域での水量増加、氾濫というプロセスがあり、多少の時間的な余裕がある。つまり被害発生までに「猶予時間」がある。そのあいだに適切な行動をとれば「被害は発生したとしても、命は守れる」と教える。「行政も手助けをしてくれるが万能ではない。自分の命は自分で守るしかない」と正直だ。

 本書では堤防崩壊のメカニズムも掲載されている。いくつかのパターンがあるが、堤防の多くは土でできており、水位が堤防の高さを越えると崩れやすくなる性質がある。川岸の「土手」はいざという時は余り頼りにならないのだ。土手に守られている川のそばに住む人は、そのことを十分承知しておくべきだろう。

 今回は都市部の「ゼロメートル地帯」の被害が比較的少なかったが、東京などの下町では、川の水面よりも低い土地に住宅が密集している。過去の地下水掘削などで地盤が沈下しているからだ。本書によれば常時、ポンプ排水することで水没を免れている。堤防が一か所でも破堤すると都市は水没する、と警告している。

 本書でもう一つ気になったのは、「スイスは1000年に一度、ドイツでは100年に一度の水害に備えている」という話だ。アウトバーンは洪水の二次的な防波堤にもなっているらしい。

 本書を執筆している「命を守る水害読本編集委員会」は国交省や河川財団、環境防災総合政策研究機構などの担当者がメンバーになっている。水害については本書のほかにも、『激甚化する水害』(日経BP社)、『豪雨水害と自治体』(自治体問題研究所)などが出ているので参考になる。

 BOOKウォッチでは関連で『台風についてわかっていることいないこと』(ベレ出版)、『限界のタワーマンション』 (集英社新書)などのほか、天皇陛下が皇太子時代に、ライフワークである水問題への取り組みについて語った『水運史から世界の水へ』(NHK出版)なども紹介している。即位のパレードは急きょ延期になったが、上掲書では「第7章」で「水災害とその歴史 ―日本における地震による津波災害をふりかえって」なども語られている。今回の水害についての陛下のお気持ちが想像できる。

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