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女子高生三人組の個性はじける青春ミステリー

プラスマイナスゼロ

 自分の交友関係を見渡してみると、「類は友を呼ぶ」のことわざに納得、という人が多いのではないか。ただ、もちろん例外はある。全くちがうタイプだし、共通点も見当たらないのに、フシギと馬が合う友人もいたりする。

 若竹七海さんの『プラスマイナスゼロ』(ポプラ文庫)は、まさにそうした凸凹な女子高生三人組が登場し、彼女たちの個性はじける青春ミステリー小説となっている。

「プラスマイナスゼロ」の三人組

 本書のタイトル「プラスマイナスゼロ」は、女子高生三人組のキャラクターを表している。一人ずつ紹介していこう。

■プラス=天知百合子(テンコ)
・不運に愛される美しいお嬢様
・成績優秀、品行方正

■マイナス=黒岩有理(ユーリ)
・極悪腕力娘とあだ名のつく不良にすくすくと成長
・成績最低、品行下劣

■ゼロ=埼谷美咲(ミサキ)
・歩く平均値
・成績・運動能力・容姿・身長体重バストヒップ・靴のサイズまで全国標準

 本書を読んでいて、テンコの不運の度合いと、ユーリの言葉遣いの粗さがちょっとやりすぎに感じたが、極端な描写によって「プラスマイナスゼロ」感が徹底されている。

舞台は神奈川県の架空の市

 舞台は、神奈川県葉崎(はざき)市という架空の市。「神奈川といってもへんぴもへんぴ、田舎、いやど田舎。神奈川の盲腸と呼ぶひともいるほどだ。周辺の鎌倉、横須賀、藤沢が人を集めて大にぎわいをみせているのに、ここ葉崎だけは交通の便が悪いこともあって時代の波から完全に取り残されていた。」とあり、元神奈川県民の評者は、あの辺りだろうか...と予想した。

 女子高生三人組が通う葉崎山高校は、その名のとおり葉崎山のてっぺんにある。牧場を横目に見ながら、山道をクロスカントリーするという独自の登校スタイル。牛の糞を踏まないよう注意しながら、遅刻しないよう山道をダッシュで登る。蛇の攻撃を受ける覚悟も必要だ。

 「よその学校からみごと滑り落ちた連中を、二次募集で優しく受けとめてあげる」高校であるがゆえ、テンコ・ユーリ・ミサキのように、雑多なカラーを持つ者同士が同級生になるという「珍事が勃発」している。

凸凹な三人組の深まる友情

 高校一年生の初夏にはじまり、テンコ・ユーリ・ミサキが出会った一年生の春、卒業を控えた三年生の冬、卒業して数年後と、三人の数年間が描かれている。「そして、彼女は言った~葉崎山高校の初夏~」「青ひげのクリームソーダ~葉崎山高校の夏休み~」「悪い予感はよくあたる~葉崎山高校の秋~」「クリスマスの幽霊~葉崎山高校の冬~」「たぶん、天使は負けない~葉崎山高校の春~」「なれそめは道の上~葉崎山高校、一年前の春~」「卒業旅行」「潮風にさよなら~新装版のあとがきにかえて~」の八編を収録。

 テンコ・ユーリ・ミサキは、学園内外で次々と起こる事件に巻き込まれ、解決の糸口を探っていく。その過程が、テンポよく面白おかしく描かれている。一つ一つの物語はバタバタと展開していく印象を受けたが、本書のいちばんの見どころは、彼女たちのかけあいだろう。どんな事件が起きようがどんな展開が待っていようが、その個性は揺らぐことなく、凸凹な三人組の友情は深まっていく。

 本書は全体的にハイテンションだが、ミサキが心のなかでひっそり、テンコ・ユーリと出会えたことに感謝する場面がある。「似つかわしくない」「一緒にいるのが理解できない、ヘンな」組み合わせのはずが、こうして凸凹が見事にはまることもある。フィルターをかけることなく、人との出会いを重ねていきたいものだ。

 若竹七海さんは、1963年東京都生まれ。立教大学文学部史学科卒業。91年『ぼくのミステリな日常』でデビュー。2013年「暗い越流」で日本推理作家協会賞短編部門を受賞。不運な女探偵「葉村晶シリーズ」など、著書多数。本書は2010年にポプラ文庫ピュアフルとして刊行された作品の新装版であり、「潮風にさよなら」は書き下ろし。

  • 書名 プラスマイナスゼロ
  • 監修・編集・著者名若竹 七海 著
  • 出版社名株式会社ポプラ社
  • 出版年月日2019年7月 5日
  • 定価本体640円+税
  • 判型・ページ数文庫判・231ページ
  • ISBN9784591163597
 

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