読むべき本、見逃していない?

「台風」の定義に関係なかった「ヘクトパスカル」

台風についてわかっていることいないこと

 2018年は勢力の強い台風の列島直撃が相次いでいる。交通機関など身近なレベルでの影響も大きいので近年になく台風への関心が高まっているのではなかろうか。本書『台風についてわかっていることいないこと』(ベレ出版)は、そんな年の秋にこそ、読書のラインアップに加えたい一冊。

「大砲で破壊」が可能になるはずだった

 明けて20世紀となった1901年1月、ある新聞に正月特集として「20世紀の予言」という記事が掲載され、そのなかで超特急列車や、高度な通信システムの登場と合わせて、台風が「大砲で破壊」可能になることが予言されていたという。鉄道や通信などについては当時の想像がほとんどが実現しているのだが、台風に関しては残念ながら(?)まったくの空振り。このことが示すように、台風は研究の対象としてなかなか手ごわい相手で、いまなお「基本的でありながら、依然として議論が尽きない研究テーマがたくさん残っている」という。

 設備や機器の進化により、解明されてきたことも数多く、20世紀の初頭に比べれば科学的な理解は格段に進んでいるという。1950年代までは一つの台風1000人以上が犠牲になる被害が頻発していたが、予報の精度は飛躍的に増し、59年の伊勢湾台風を最後に、一つの台風で犠牲者が100人を超えることはなくなったという。

 2018年9月29日から30日にかけて列島を縦断した台風24号では、何時間も前からメディアを通じて風雨についての情報が細かく提供され、各地で鉄道が運転見合わせとなり安全が優先されたものだ。だが、市民レベルの側では、台風が実際にくるまではその脅威がうまく想像できず、電車が止まることに納得できなかったりもする。このあたりのことが、本書のタイトルでもある「台風についてわかっていることいないこと」と関係があるらしい。

「課題多い」強度予報

 気象庁による台風の定義は「北大西洋に存在する熱帯低気圧のうち、低気圧域内最大風速が毎秒およそ17メートル以上の熱帯低気圧」。だが、台風の発生や接近などを報じるテレビのニュースなどでは「中心気圧940ヘクトパスカルの強い台風...」などと、中心気圧の低さで台風の強さが表現される。気圧の情報は重要なのかもしれないが、ヘクトパスカルという単位を果たしてどのくらいの人が距離や重さのように実感できるのか。

 施設や機器の進化で、台風に分類される熱帯低気圧はすぐに発見できるようにはなったが、最大風速や中心気圧についての強度予報は進路予報と比べると「課題が多いのが現状」という。

 しかもほとんど場合で気象庁は気圧や風速を測っていない。台風が上陸して観測データが得られる場合は別だが、そうでない場合は、静止気象衛星の画像などを用いて「推定」している。具体的には、静止画像の雲のパターンから決められた手順にしたがって中心気圧と最大風速を導き出す「ドボラック法」という、いわば公式によるもの。だいたいこれくらい...というものらしい。

常時はできない航空機観測

 米国ではハリケーンの強度を実測するため「ハリケーン・ハンター」と呼ばれる観測仕様の航空機を使用。気圧や風速を測り、その強さに応じて「カテゴリー1~5」に分類。進路地域の住民に避難の目安を提供している。

 日本でも「ドボラック法」による推定値の検証のなどのため2017年10月、小型ジェット機を飛ばして、同年の台風21号を観測。2018年9月末の台風24号でも同様の試みが行われたことが報じられた。飛行機を使った直接観測は、費用や設備面で常時行うことは困難なようだが、気象の専門家らは「多くの人にとっては究極的には自分に被害が及ぶかどうかが最大の関心事」ということは分かっており、将来の台風予報は、そうしたニーズに応えるように進化するとみている。

 編著者の筆保弘徳さんは、台風や局地風が専門の横浜国立大学准教授。ほかの5人の著者は、台風や気象が専門の大学准教授や助教、専任講師や気象庁の主任研究官ら。

 本書は「天気と気象についてわかっていることいなこと」(2013年)「異常気象と気候変動についてわかっていることいなこと」(14年)「天気と海の関係についてわかっていることいなこと」(16年)に続く「わかっていることいなこと」シリーズ第4弾。2018年は列島をうかがう台風が多く関心が高まっているらしく、本書は8月に初版発行されるとその1か月後には重版がかけられた。ベレ出版は1998年11月に設立。出版方針の一つに「語学・数学・自然科学・社会・日本語の分野で、ふつうの大人のためのやりなおしテキストの出版に挑戦」を挙げている。

  • 書名 台風についてわかっていることいないこと
  • 監修・編集・著者名筆保弘徳 編著、山田広幸/宮本佳明/伊藤耕介/山口宗彦/金田幸恵 著
  • 出版社名ベレ出版
  • 出版年月日2018年8月13日
  • 定価本体1700円+税
  • 判型・ページ数四六判・344ページ
  • ISBN9784860645557

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