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ネット独裁主義をアフリカに広める中国

チャイナスタンダード

 米中の貿易摩擦がエスカレーションしている。2019年9月1日、トランプ米政権が対中制裁関税「第4弾」を発動し、中国も即座に報復関税を発表した。米国と覇権を競うまでに力をつけた中国。いまがその歴史的転換点なのか、という問題意識で朝日新聞が18年5月から8か月にわたり連載した「チャイナスタンダード」が同名の本になった。

「VPN」切断のいたちごっこ

 本書『チャイナスタンダード』(朝日新聞出版)は、連載をもとに、サイバー空間、開発協力、生命科学、メディア、マネー、海洋進出などのテーマで、「中国式」が世界各地に進出、普及するさまを描いている。30人の記者がかかわった本で、各地のルポが中心になっている。

 アジア、アフリカ諸国への開発協力をテコにした、中国の進出ぶりはテレビでもよく報道されている。評者が興味を持ったのは、第2章「サイバー空間」と第5章「メディア」の項目である。

 中国は「サイバー(ネット)主権」という立場を主張している。国境をまたぐネット空間でも、実際の領土と同様に各国の主権を認めコントロールできるようにすべきとの考え方で、国家が管理を強めて情報を検閲し、遮断することも正当化している。

 本欄で以前、『習近平のデジタル文化大革命』(講談社+α新書)を紹介した際に、中国のネット検閲「グレート・ファイアウォール」を回避するため、「VPN」サービスを利用する若者にふれた。「VPN」の利用は当局に「反体制的」だとにらまれるため、最近は利用を止めたということだった。

 本書では、上海出身の「VPN」サービス業者に取材している。実は中国に近い日本国内に数多く存在するという。接続先の日本や米国のサーバーのIPアドレスを見つけ出しては遮断する、いたちごっこが続いているそうだ。17年6月に中国でサイバーセキュリティ法が施行され、「VPN」サービスがつながらないことが増えているという。

 評者も昨年来、天安門事件30周年をテーマにしたネット連載にかかわったが、ネット上でいくつか不都合が生じた(詳細は明かせない)。中国当局にマークされていることが分かり、上記の本で書かれている検閲が海外にも及んでいることを実感した。

 「サイバー主権」を唱える中国と「自由」をうたう米国。本書では、第三のモデルを模索している欧州の動きを紹介している。EU加盟28か国とノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタインの計31か国は、18年5月から個人情報を域外に持ち出すことを原則禁じる「一般データ保護規則(GDPR)」を導入した。フェイスブックの個人情報流出疑惑などでネット空間の無秩序さへの警戒感が高まっている、と指摘する。企業に甘い米国と政府が強い中国、最近GAFAへの規制を求める動きが出ているのは、欧州のこうした考え方の影響だろう。

 一方、中国の支援で国営の通信事業者がネットを整備するアフリカの諸国では、中国式が広がろうとしている、と本書は警告する。

中国版CNNが世界約170か国で放送

 第5章「メディア」では、米国のCNNに似た中国版CNNを中国が米国・ワシントンに置いて放送しているという話に驚いた。中国国営の中国国際テレビ(CGTN)だ。約240人の記者やアナウンサーのうち、約200人が英語を母語とし、米CNNやFOXニュースから引き抜いたという。世界約170か国で放送され、約3億8000万人の視聴者がいるとされる。

 本書では、「欧米メディアによる独占を突き崩し、世論を制御することを目指している。世界の人びとの中国に対する否定的なイメージを変えようと試みている」(ジョージ・ワシントン大学教授、デイビッド・シャンボー氏)というアメリカの専門家の意見を紹介している。

 中国が空母など海軍力を増強し、海洋進出を図っている様子は絵になるので、テレビニュースでもよく報じられている。だが、ネットやメディアによる世界進出は地味な話題のせいか、あまり耳にしない。こうした分野で「中国式」が浸透していることこそ脅威だと評者は感じた。

 「天安門」の3文字は中国ではNGワードで、検索も出来ない。そうしたネット独裁主義がアフリカなど他国でのスタンダードにもなるかと思うと、恐怖だ。

  • 書名 チャイナスタンダード
  • サブタイトル世界を席巻する中国式
  • 監修・編集・著者名朝日新聞取材班 著
  • 出版社名朝日新聞出版
  • 出版年月日2019年7月30日
  • 定価本体1400円+税
  • 判型・ページ数四六判・256ページ
  • ISBN9784022516237

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