本書『習近平のデジタル文化大革命』(講談社+α文庫)の著者・川島博之さんは、東京大学大学院農学生命科学研究科准教授で専門は開発経済学、環境経済学。この20年間で40回中国を研究のため訪れている。しかし、前著『戸籍アパルトヘイト国家・中国の崩壊』(同)を書いてから、中国政府のブラックリストに載ったようだ、と明かす。川島さんの知人が、中国旅行中パソコンに川島さんの名前を入力して検索してから、そのパソコンは日本に戻るまでネットに接続できなくなったという。ブラックリストに載ったのは名誉なことだが、「怖くて、再び中国を訪問することができなくなった」と書いている。空港で顔認証システムを備えたカメラが川島さんの顔をとらえた瞬間、連行されスパイ容疑で逮捕というシナリオが頭に浮かぶからだ。
中国批判、習近平の独裁体制批判の本はほかにもあるが、本書はデジタル技術を応用した24時間、全人民を監視、支配するSFのような恐怖のシステムが、2018年から稼働したと指摘した点で画期的である。そしてこれを「デジタル文化大革命」と名付けた。
中国人の知り合いの22歳大学生はVPN(Virtual Private Network)を使い海外のネットに接続するのを止めたという。パソコンが監視され、VPNを使っていることが当局に把握され、就職に不利になるのを恐れたからだ。ネットへの締め付けはほかにもいろいろある。ブログやネットに「習近平」という文字を書き込むことができない。「敏感詞」(不適切な単語)ということで自動的に削除されてしまうという。敏感詞はどんどん増え、「皇帝」「肉まん」「くまのぷーさん」なども含まれるというから、ジョージ・オーウェルの『一九八四年』も真っ青の世界だ。
中国ではスマホ決済が当たり前になっている。個人情報は政府にダダ漏れだ。これに国民総背番号制がリンクし、個人の信用度が点数化されているという。ほかにもさまざまな行動やマナーが監視カメラ・画像識別システムで捉えられ、点数に加わるとされる。中国では新幹線に乗るにも検問所があり、信用度の低い人が身分証明書をかざすと赤いランプが点灯し、手荷物検査、身体検査を受けるというから恐怖だ。ウイグル族など少数民族は最初から点数が低いため、それだけで監視の対象となる。
一方、中国のネットは海外とは遮断されている。ホテルなどでVPNを使うしかないが、これは監視の対象だ。だから中国は「文化鎖国時代」に突入し、いずれ創造力、国力は衰えると川島さんは見ている。
本書にはこのほかにも政治、経済的な分析もあり、「5年以内に習近平体制は崩壊する」「『デジタル文化大革命』は諸刃の剣になりかねず、共産党一党独裁体制に終止符を打つ」と予測する。
習近平は、2035年まで政権の座にとどまり、終身の国家主席たることを目指そうとしているが、本書は真っ向からこれを否定する。川島さんが再び中国に行く日は来るのだろうか。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?