アルコール依存症にギャンブル依存症、スマホ依存症にゲーム依存症......。依存症をテーマにした本は実に多く、BOOKウォッチでもしばしば取り上げてきた。しかし、本書『セックス依存症』(幻冬舎新書)を手にするには、少しためらいがあった。あやしい際物かと思ったからだ。読んでみたら誤解だった。セックス依存症は決して性欲の問題ではなく、さまざまな要因が複雑に絡み合って生じた問題だと解説する、真面目な本だった。
著者の斉藤章佳さんは、精神保健福祉士・社会福祉士。大船榎本クリニック精神保健福祉部長。20年にわたり、アルコールやギャンブル、薬物、接触障害やクレプトマニア(窃盗症)、痴漢や盗撮、小児性暴力といった性犯罪など、さまざまな依存症治療の現場に携わってきた。
タイガー・ウッズのセックススキャンダルをきっかけに、日本でも「セックス依存症」という言葉がメディアに登場。芸能人の不倫問題をきっかけに再び、語られるようになった。斉藤さんは、女性に対する支配欲や優越感、男尊女卑的な価値観とつながった「認知の歪み」が感じられるが、安易に「セックス依存症」とレッテル貼りするのは、非常に危険だとしている。
さまざまな実例を紹介し、「誰しもが陥るリスクのある病」だと警鐘を鳴らしている。
本書の構成は以下の通り。
第1章 誤解だらけのセックス依存症――彼らは「性欲モンスター」ではない 第2章 危険なセックスをやめられない人たち――実例から背景を読み解く 第3章 「性的しらふ」を求めて¬――セックス依存症の治療:医療機関と自助グループ 第4章 依存症当事者に聞く 自助グループの内側 第5章 性依存症の背景にある社会問題――性欲原因論、男尊女卑、性教育とアダルトコンテンツ 第6章 AV男優・森林原人と語るそもそも「性欲」とはなにか?――幸せなセックス、依存症のセックス
第2章に実例が豊富に出てくる。仕事でストレスが溜まるたびに、ナンパしてセックスをしていた40代男性。被害届が出され、逮捕された。強制性交等罪で起訴され、初犯だが実刑判決を受けた。「母親に受け入れられたい」という承認欲求が、ねじれた形で出たと見られる。
20代女性は義父から受けた性的虐待がトラウマになり、マッチングアプリを利用した不特定多数とのセックスがやめられなかった。虐待のせいで自己評価が極端に低下し、セックスのときだけ「自分が必要とされている」と錯覚し、好きでもない相手でも性行為そのものにのめり込むという。セックス依存症で悩む女性の中には、風俗店で働くようになるケースも少なくないそうだ。
このほか、風俗通いで借金を重ねる男性、クリニックの外で性行為におよぶ女性、脅迫的な自慰行為にのめり込む男性、過激なSMで流血に至った男性、障害者の息子と関係を持つ母親などの例も。
狭い意味の「セックス依存症」のほか、痴漢、盗撮・のぞき、露出、風俗通い、不倫・浮気など広い意味の「性依存症」があることがわかる。
臨床現場では「セックス依存症」という診断名は存在しない。類似の診断名として「性嗜好障害」という病名があるという。また2018年、WHO(世界保健機関)が定めた精神疾患の分類では、「セックス依存症」を「強迫的性行動症」という精神疾患であると認定した。
自分は無縁だと思っていても、「やめたいのにやめられない」状態に陥っている人は想像以上に多いようだ。
斉藤さんは、性依存症が疑われる場合は、まず依存症専門外来のある精神科に行くことを勧めている。また、自助グループを利用し、性的な問題行動を使わずに生きる、「性的しらふ」という状態を続けるようにと、説いている。
読み物として出色だと思ったのは、第6章、AV男優の森林原人さんと斉藤さんとの対談だ。筑波大学附属駒場中学校・高校に入学するも勉学に挫折。一浪してある私大に進学後、20歳でAVデビュー。出演作品1万本、経験人数1万人以上という森林さんは、「僕もセックス依存症だったかもしれない」と語っている。もしもAV男優になっていなかったら、人生破滅していただろうとも。
セックスによる自己肯定感を語る森林さんに対して、斉藤さんがセックス依存症の人が危険な方向に走ることを指摘しているのが印象に残った。
BOOKウォッチでは、アルコール依存症をテーマにした小説『全部ゆるせたらいいのに』(新潮社)、スマホ依存症について『スマホ依存から脳を守る』(朝日新書)、『スマホに負けない子育てのススメ』(主婦の友社)、ギャンブル依存症などをテーマにした『「こころ」はいかにして生まれるのか』(講談社ブルーバックス)などを紹介済みだ。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?