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「いいね!」を押して、の欲求が我々の行動を駆り立てる

書評掲載元:こころ

「こころ」はいかにして生まれるのか

 「私はなぜ、あんなことをしたのだろうか?」と後日、自分の行動を疑問に思うことはないだろうか(特に二日酔いの翌日など)。自分の行動は自分の意志が決めたと我々は考えているが、神経科学の立場から言えば、行動の多くは意識下にある「こころ」で選択されているという。我々は後づけの理由を見つけて、意識や自我が選択していると思い込んでいるにすぎないそうだ。本書『「こころ」はいかにして生まれるのか』(講談社ブルーバックス)は、そのような「こころ」が動く原理や行動を選択するメカニズムをわかりやすく解説している。

 著者の櫻井武さんは筑波大学医学医療系および国際統合睡眠医科学研究機構教授で睡眠に詳しい医師。1998年に覚醒を制御する神経ペプチド「オレキシン」を発見したことでも知られる。

 櫻井さんは、「情動」という概念を用いて「こころ」を研究する仕組みを説明する。情動とは感情の客観的かつ科学的な評価だ。情動は行動や表情にあらわれる。また心拍数や血圧などの生理的機能は客観的な指標になる。有名な「パブロフの犬」を含む動物実験やヒトにおける情動研究の歴史を紹介しているが、中でも驚きを受けたのは、記憶にかかわる海馬の研究だ。

 大脳辺縁系にある海馬は、体験した出来事の記憶を言葉に置き換えて表現した「陳述記憶」の生成にかかわる。この考えの確立には、ヘンリー・グスタフ・モレゾン(1926-2008)という人物の生涯が影響しているという。生前「H.M.」というイニシャルで呼ばれた患者で、てんかん治療のため20代後半のとき、海馬を含む多くの大脳辺縁系を切除されたのだ。てんかん発作は消えたが、新しい陳述記憶をつくることができなくなった。新しいことを記憶することはできなかったが、情報を一時的に保持して一つの文章をつくることはできた。50年以上も記憶のない人生を生き続けながら、記憶のさまざまな機能は脳の部位ごとに担われているという大発見など多くの研究に貢献したという。

ビギナーズラックでギャンブルにはまるワケ

 動物もヒトも「報酬」を求める。動物が食べ物や異性を報酬と感じるのは「個体や種を保存するために備わった本能的な機能であるといってもいい」という。我々がギャンブルやスマホゲームをやめられないのは「快感」を求めるからである。「快感」こそ「報酬」の最たるものだ。脳には報酬系と呼ばれる領域があり、神経伝達物質ドーパミンが放出されると快感が生まれる。ドーパミンが側坐核という部分に放出されると、その放出に至った原因となった行動が強化される。その行動が病みつきになるのだ。不確実で意外な報酬ほど大きいと脳は判断する。だからビギナーズラックが大きいほどギャンブル依存症になりやすいと考えられる。覚せい剤などの依存性物質はドーパミンの機能を高めるものだから、やめられなくなる。

 著者は「行動のほとんどは無意識になされている」と説明する。たとえば歩行。意識しなくても歩けるのは、脳幹や脊髄にプログラミングされた行動パターンが多数備わっているからだという。

 結論部分で著者は「集団の中で自分の存在を認められたい、という承認欲求が、人々の欲求、つまり報酬系を作動する大きな要因になっている、インターネットの普及がそれを後押ししている」と書き、我々の「こころ」は進化していると説く。

 自分のアタマで考え自分の行動を決めていると我々は思っているが、必ずしもそうではないことを本書は教えてくれる。「こころ」の奥深さを知り、謙虚になるかイケイケで行くか、それもまた我々は「こころ」に支配されているのである。  

  • 書名 「こころ」はいかにして生まれるのか
  • サブタイトル最新脳科学で解き明かす「情動」
  • 監修・編集・著者名櫻井武 著
  • 出版社名講談社
  • 出版年月日2018年10月20日
  • 定価本体1000円+税
  • 判型・ページ数新書判・234ページ
  • ISBN9784065135228
 

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