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五木寛之さんが「自殺を悪いことだとは思わない」理由

死の教科書

 永遠の文学青年のような五木寛之さんも今年88歳だという。本書『死の教科書』(宝島社新書)はそんな五木さんの最新刊の一冊。ご自身によるエッセイではない。「死」に関する様々な悩みに五木さんが答える問答集だ。全部で48の質問が並んでいる。上手に構成されており、実に読みやすい。中高年だけでなく、若い世代からの問いかけにも答えている。

多田富雄さんの名を挙げる

 いくつかの問答を紹介しよう。

 問1は50歳の男性からのもの。「先日、大腸に小さながんが見つかりました。幸い、内視鏡での摘出で済みましたが、がんと宣告されて、はじめて自分の死を意識して怖くなりました。死への恐れを鎮める方法はあるのでしょうか?」。

 いきなりの直球である。その答えは、本書で確認していただきたい。

 続いて、問2は「五木さんがこれまで見聞したなかで、『見事な死にざまだったな』『自分も死ぬときはこうありたいな』と思った方はいらっしゃいますか?」。

 五木さんは、2010年に亡くなった免疫学者の多田富雄さんの名前を挙げている。多田さんは『免疫の意味論』で大佛次郎賞を受賞、新作能の作者としても知られた。五木さんは対談をしたことがあり、個人的な付き合いもあった。

 多田さんは01年に脳梗塞で倒れ、介助なしでは生きていけない状態になった。身動きできず、言葉も発せられなくなっても、著書を何冊も出し、能の新作も書いた。「最期の最期まで悪戦苦闘しつつ、旺盛な活動を続けられながら逝かれた。その意味で、実に見事な死の迎え方だったと言えるのではないでしょうか」と感服している。

二度、自殺を考えた

 本書は以下の構成。

 第1章 死のかたち
  後悔のない死に方、死と信仰、死とは何か、など
 第2章 死と社会
  自殺を思う瞬間、子供の自殺、など
 第3章 大切な人の死に向き合う
  喪失の悲しみを癒やす、ペットロス、など
 第4章 生きることを問い直す
  人生の価値、人を殺めた罪、など
 第5章 遺す言葉
  遺書の書き方、墓を諦める日、など

 自殺に関する質問が何度も登場する。大学は出たが、就職氷河期で現在も非正規雇用で働いている人が問いかけている。「月収は少なく、結婚はおろか、恋人もいません。生きるのがつらく、死にたいと考えることもあります。自ら命を絶つことは悪いことなのでしょうか?」。五木さんが答える。

 「自殺が悪いことだとは思いません。それは、私自身がこれまでに二度、自殺を考えたことがあるからです」

 このことは、これまでも五木さんは著書で書いているが、本書で改めて語っている。二度目は50歳のころだったという。「休筆」を宣言、いったん執筆活動から離れて大学で宗教を学びなおしたことがあるが、これは当時の「自殺願望」が関連していたという。したがって、「そんな私には、自殺を『悪いこと』として、完全に否定しきることは到底できません」と率直な思いを語っている。このあたりは、世間の大方の良識人とは、やや異なる反応といえるだろう。もちろん単純に自殺を肯定するわけではなく、本書ではもう少し補足している。

「真実の詰まった一冊」

 五木さんは小説家としての活動のほかに、『大河の一滴』など多数のエッセイのベストセラーで知られる。巻末の参考文献にそれらが掲載されている。本書はそうした過去のエッセイから「死」に関わるエッセンスを抜き出して再構成したような一面もあるに違いない。最後に五木さんは書いている。

 「死を遠ざけることで人は元気になるのではない」「死を常に感じていることが、生きていく力になる」

 すでに9月12日の毎日新聞読書面で、社会学者の橋爪大三郎さんが本書を取り上げ、「語り口が優しい」「真実の詰まった一冊だ」と評している。

 BOOKウォッチでは五木さんの『百歳人生を生きるヒント』(日本経済新聞出版社)、『孤独のすすめ』(中公新書ラクレ)のほか、野坂昭如さんの『戦争童話集』(中公文庫)を取り上げる中で、五木さんによる野坂さん追悼文も紹介している。

 このほか関連本として、『死を思うあなたへ』(日本評論社)、『12階から飛び降りて一度死んだ私が伝えたいこと』(光文社)、『拡大自殺』(株式会社KADOKAWA)なども取り上げている。

  • 書名 死の教科書
  • サブタイトル心が晴れる48のヒント
  • 監修・編集・著者名五木寛之 著
  • 出版社名宝島社
  • 出版年月日2020年9月 9日
  • 定価本体740円+税
  • 判型・ページ数新書判・240ページ
  • ISBN9784299004130

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