五木寛之さんの最新刊『百歳人生を生きるヒント』(日本経済新聞出版社)が快調に売れている。版元のツイッターによると、発売3週間で10万部を突破したという。
それにしても五木さんはお元気だ。85歳だというが、近影も若々しい。今も毎日、「日刊ゲンダイ」の連載コラムを続けているし、この一年だけでも『孤独のすすめ』など人生論に関する新書を何冊も出している。同年代でこれほど引っ張りだこの作家は五木さんだけだろう。
もちろん、毎回、イチから書くのはしんどい。本書も2017年夏から秋にかけて行った五木さんへのインタビューをもとに編集・構成したものだと断っている。
五木さんは、とにかく話上手なのだ。10年ほど前に五木さんの講演を聴いたことがある。1000人以上の聴衆で満席だった。原稿を用意しているわけでもないのに、よどみなく、途中でつかえたりすることがない。ちょっと訛りがあるとつとつとした口調。生後まもなく朝鮮にわたり、外地で育ったせいなのか。それとも九州訛りなのか。
今でも覚えているのが、引き揚げ時の惨憺たる話だ。五木さんは中学生ぐらいだったはずだ。日本人の老若男女がバスかトラックで朝鮮半島を南下する。途中でソ連兵に制止され、若い女性たちを差し出すことを要求される。しばらくたって、彼女らが戻ってくる。何が起きたか、大人は皆知っている。彼女らが犠牲になる代わりに、多くの日本人が目こぼしされた。ここまでは、聞いたことがあるような話だ。
しかし、五木さんは続ける。このあと、小さな子を持つ親たちは、子どもたちに、「あの女に近づくな」と命じる。なぜなら悪い病気をうつされている可能性があるからだ。我が子にうつるのが心配なのだ。人間がいかに身勝手で利己的で非情か、真実はいかに隠され、語られにくいか。五木さんは力を込める。涙をぬぐう聴衆が少なからずいた。
このような「地獄」を見てきた五木さんの人生論は、きわめて反語的だ。ビジネスで成功するための方法とか、誰かに気に入られるための手近なアイディアを語るものではない。「下山の思想」を説き、「群れから離れる覚悟」「俗世間にありながら出家の心をもつ」「じっくり孤独を楽しむ」など勧める。
単純に言えば、周囲に惑わされず、しっかりした自分を持つということだろう。そのための努力を惜しまず、続けようということ。「百年といえども、一日一日の積み重ね・・・今日一日を、自分の納得するように生きよう、という決意が大切なのではないか」と記す。
こうした五木節を読んでいて、ふと、何かに似ていると思った。最近リバイバルブームが起きている『君たちはどう生きるか』だ。80年前の本でもあり、主人公は子どもなのだが、重なる部分がある。
『君たち...』の主人公のコペル少年は、「周りの人にどれだけ間違っていると言われても、自分の考えを信じぬける立派な人間に僕もなってみたい」と思う。そして「僕たち人間は自分で自分を決定する力をもっている」と自分に言い聞かせる。
五木さんが子どものころに『君たち・・・』を読んだのかどうか分からないが、「人生論」というものは常に、「しっかりした自分」をつくることを促す。その大切さは、「子ども」でも「大人」でも「老人」でも変わらないということだろう。
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