『侵略する豚』(小学館)は、これまで『中国食品工場の秘密』『食料植民地ニッポン』などの著書で食料問題を取材し続けてきたジャーナリスト・青沼陽一郎氏の最新刊だ。現場に出かけて自分の目で確かめる手法で食料問題の本質に迫ってきた著者は、本書でもアメリカ最大級の豚肉加工工場に飛び、中国では取材中に公安に連行されて取り調べまで受けてしまった。
そこまでして著者が訴えたいのは、統計にもよるが、食料自給率(カロリーベース)40%を切る日本が食料の輸入を通じて支配されるという危機感である。そして日本の「台所」を支配しているのはアメリカと中国だ。本書ではこの問題を、豚肉に焦点を当ててリポートしている。
本書のタイトルにもなった「豚肉による侵略」が始まったのは1960年。伊勢湾台風被害の支援として、米国が35頭の豚を空輸したのだ。マスコミは「戦争の憎しみをこえた美しい物語」として、このアメリカからの贈り物を報じたが、アメリカの善意には裏があった。豚を空輸する費用をバックアップしていたのは全米トウモロコシ生産者協会。つまり、日本に米国式養豚業を植えつけて、飼料としてのトウモロコシの市場を広げようと考えたのだ。
トウモロコシ生産者協会の目論見は大成功した。35頭の豚はその後50万頭にまで増え、今では日本の豚のほとんどがこの時の35頭の豚の遺伝子を引き継いでいるという。そして、豚たちの餌としてのトウモロコシはほぼ100%を輸入に頼っている。また、世界一の豚肉輸出国である米国が最も多額な取引をしているのも日本だ。日本の豚肉自給率は51%で、その半分を米国からの輸入に頼っている。
2001年にブッシュ大統領は、米国の若手農業者を支援する機関でこう演説した。「君たちは、国民に十分な食料を生産自給できない国を想像できるかい? そんな国は、国際的な圧力をかけられている国だ。危険に晒されている国だ」。アメリカは食料を武器として利用し、日本はまんまと利用されているというわけだ。
そして、日本を食料支配する第2の国が中国だ。かつての日本は中国を植民地のように利用して食料を生産していた。中国の土地を耕し、水資源を利用し、自給率の落ちてきた日本の食材を確保した。しかし、デフレにはまった日本は中国への食料依存を拡大することで、いつの間にか中国に胃袋をつかまれてしまった。
食料輸入国となった日本は真剣に、将来を見据えた食料政策を考え直さなければならないと実感させてくれる圧巻の一冊だ。
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