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新聞の「書評欄」に出るだろうか

新聞社崩壊

 自分のいた会社や業界のことを「告発」する人には大別して二通りのタイプがあるように思う。一つは、現役時代に不遇をかこった「不満分子」、もう一つは「正義感」にかられたタイプ。後者で、しかも所属した組織の要職を経験した人の「告発」なら、より信憑性が増す。

 本書『新聞社崩壊』(新潮新書)の著者、畑尾一知さんは1955年生まれ。東大文学部を出て朝日新聞に入り、主に東京の販売局に勤務、流通開発部長や販売管理部長も務め定年退社した。いわばライン管理職だった人なので、上記の分類では後者に属すると言えるだろう。

「格差」が広がっている

 したがって本書は、いわゆる「告発本」とはやや異なる。業界を真摯に憂えた「警鐘本」とでも呼ぶべきか。新聞業界が先細りということは随分前からさんざん言われていることだが、改革の歩みはのろい。業界大手の会社で長年、販売現場を経験し、経営実態にも精通する著者が改めて声を大にして警告し、処方箋を示した本なのだ。

 最も興味深いのは、第四章「暮色の新聞社群」だ。「全新聞社の経営評価表」が掲載されている。このまま事態が進むと、2025年には新聞全体の部数が3割減り、営業利益はマイナス2割になると予測。その中で部数10万部以上の43社について、「社員一人あたりの売上」「自己資本比率」などの指標をもとに評価している。

 当然ながら結果は社によってばらつきがある。全国紙では読売、日経が13点、朝日が12点なのに対し、毎日は6点、産経は5点。産経については「今後経営がさらに悪化していくと、フジサンケイ・グループは産経に見切りをつけて手放す可能性がある。その前に、東京本社の発行をやめて、大阪に集中する選択肢もあるかもしれない」と記す。

 全43社を見渡すと、12点以上のスコアの新聞社は10社にとどまり、全体の半数が10点以下。「格差」が広がっている。

いずれ紙の新聞がなくなるのか

 新聞業界の危機を訴えた本としては、元毎日新聞記者で、同社常務も務めた河内孝さんが2007年に出版した『新聞社――破たんしたビジネスモデル』(新潮新書)が有名だ。当時まだ現役で新聞社に勤めていた畑尾さんは、「いずれ紙の新聞がなくなり、新聞社はネット配信する記事の管理会社になる」という河内さんの予測に強い衝撃を受けたという。

 はたして新聞は再生できるのか。畑尾さんは「新聞大好き人間」であり、「今のような形態の新聞を一生読みたい」という願いをもって本書を書いたという。しかしながら2030年代の新聞は「変わらざるをえない」と予想する。

・今より部数はずっと少ないが、安定した購読者層を維持している。
・月決めの購読料は今より安く、ページ数も少ない。
・人々がニュースに接する手段はデジタルデバイスが主流だが、プラットホームのニュースサイトに新聞社が配信している...

 本書はまだ出版されたばかり。新聞業界にとっては耳の痛い、辛辣な話が満載だ。はたして新聞の「書評欄」に登場するだろうか。

  • 書名 新聞社崩壊
  • 監修・編集・著者名畑尾一知 著
  • 出版社名新潮社
  • 出版年月日2018年2月15日
  • 定価本体780円+税
  • 判型・ページ数新書・240ページ
  • ISBN9784106107535

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