日本映画の記録を塗り替える勢いで大ヒット中の映画「鬼滅の刃」。あらためて漫画、アニメ『鬼滅の刃』の世界観を知りたいと思った人も多いはずだ。本書『鬼滅の日本史』(宝島社)を読むと、日本史に登場した鬼の歴史をたどりながら、『鬼滅の刃』の登場人物や背景について理解を深めることができる。『鬼滅の刃』の格好のガイド本にもなっている。
巻頭には、丹波の国の武士・津田家の屋敷に現れた「一つ目」の怪物を描いた絵巻、源頼光が土蜘蛛と戦う様子を描いた絵(いずれも湯本豪一記念日本妖怪博物館蔵)など、鬼を描いたさまざまな絵画資料が掲載されている。古来人々が鬼を恐れるとともに、記録し語り継いできたことがわかる。
『鬼滅の刃』に描かれた鬼のルーツを探るため、日本の歴史において人々は鬼にどのように喰われ、どのように斃してきたのか、古典に数多く描かれた鬼の物語などから、『鬼滅の刃』の背景に迫っている。監修は歴史家の小和田哲男・静岡大学名誉教授。
最も古い鬼の記述は、8世紀に編纂された地誌『出雲国風土記』に登場する阿用郷(あよのさと)の鬼だという。
あるとき里に住む男が山の中の畑で野良仕事をしていると、そこに一つ目の鬼が現れ、この男を捕らえて食べはじめてしまった。これが明確に「鬼」と認識した最古の記録だ。
本書は鬼の歴史、鬼と戦ってきた人々の歴史、『鬼滅の刃』に対する考察を以下の構成で描いている。
第1章 『鬼滅の刃』前史1 人類の捕食者 鬼の誕生 第2章 『鬼滅の刃』前史2 実録 人類 VS.鬼 第3章 隠された鬼滅の暗黒史 第4章 新考察『鬼滅の刃』の謎
馬場あき子氏の著書『鬼の研究』を参考に、鬼には5つのカテゴリーがあるとしている。
1 神道系の鬼 霊、地霊など 2 修験道系の鬼 天狗、修験道の伝説的開祖・役小角など 3 仏教系の鬼 4 恨み、怒りなどの情念によって元は人だったものが姿を変えた鬼 「道成寺」の清姫など 5 権力に従わず、「鬼」とされた人々 蝦夷など
本書は、人間でありながら社会秩序から外れ、人間社会に対する抵抗者として描かれる『鬼滅の刃』の鬼に最も近い鬼は、5つ目の「鬼」とされた人々だろうと書いている。
『古事記』や『日本書紀』には、天皇と出会う土着の勢力は、土蜘蛛という見下した名で呼ばれたり、異形の姿で表されたりしている。時代が下っても、天皇に背く者、朝廷に従わない者は、権力者によって「鬼」とされ、恐るべき者とされていったのだ。
もっともスリリングな指摘だと思ったのは、『鬼滅の刃』は鬼VS.鬼の戦いだったとみる第3章である。鬼と戦う鬼殺隊は、社会の「埒外者」の集団であり、つまり上記の5つ目の「鬼」にあたるというのだ。
「主人公・竃門炭治郎の家は山中にあり炭売りを生業にし、同期の我妻善逸や嘴平伊之助は捨て子、そのほか盲目の人物や忍者、日輪刀をつくる刀鍛冶の里の人々など、町や村のコミュニティに組み込まれていない人々で鬼殺隊は構成されているのだ」
主人公・竃門炭治郎の生家が「ヒノカミ神楽」と呼ばれる厄払いの神楽を代々継承していることから、中世における芸能集団・傀儡子(くぐつし)に重なるものを見ている。
また、山中を放浪した「サンカ」や人身売買された子どもなどが鬼殺隊メンバーであると指摘している。
非定住民である「サンカ」は、国家権力が強まった明治以降は減少傾向にあり、昭和30年代にはほぼ消滅した。
『鬼滅の刃』では、鬼もまた悲しい過去を持っていた、とある種の共感を持って描かれている。鬼殺隊も社会から差別されていた人たちで構成されていたと考えると、「哀しみ」はさらに深く感じられる。
『鬼滅の刃』の鬼は、さまざまな古典からヒントを得ながら、鬼のキャラクター設定を行ったと考えられる、と書いている。解読作業は始まったばかりだ。
本書は、至るところに『鬼滅の刃』にかんする記述が出てきて、物語の結末につながる「ネタばれ」になりかねない箇所もある。『鬼滅の刃』を読んでから本書を読むのがいいだろう。
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