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「幸せな家族」と「不幸せな家族」の違い

家族の幸福度を上げる7つのピース

 新型コロナ一色の今年、家族で過ごす時間が増えた。内閣府の調査によると、新型コロナ感染拡大前に比べて「家族の重要性をより意識するようになった」49.9%、テレワーク経験者に至っては「仕事より生活を重視すると考えるようになった」64.2%だったという。

 「家族との絆を確かめ合う機会になった」という人がいる一方、家族時間が「ストレス」という人も。一緒にいられることに幸せを感じている家族と、感じられない家族。その違いは一体どこにあるのか......。

 本書『家族の幸福度を上げる7つのピース』(青春出版社)は、慶應義塾大学SDM研究科教授の前野隆司さん(夫)、慶應義塾大学SDM研究所研究員のマドカさん(妻)による共著。前野さん夫妻は、職場では研究者として幸せについて調査し、家庭では夫婦として家族の幸せを追求してきた。家族のあり方に疑問や不安を感じている人に「幸福学」を活用して家族の幸せを感じてもらうため、本書を執筆したという。

「幸せな家族になっていくための道」

 前野隆司さんは、1962年生まれ。84年東京工業大学卒。86年東工大修士課程修了。キヤノン株式会社、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授などを経て、2008年より慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授。専門は幸福学、システムデザイン、認知心理学・脳科学、心の哲学・倫理学、地域活性化、イノベーション教育など。

 前野マドカさんは、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科附属システムデザイン・マネジメント研究所研究員。EVOL株式会社代表取締役CEO。IPPA(国際ポジティブ心理学協会)会員。一般社団法人ウェルビーイングデザイン理事。サンフランシスコ大学、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)などを経て現職。

 まず、あまり聞き慣れない「幸福学」について。これは心理学と統計学をベースに、人が幸せになるためのメカニズムを明らかにする学問という。アンケートをとった上で幸せになる要因や条件を科学的に導き出していくもので、1980年代頃から発達した比較的新しい学問のようだ。

 次に、本書の軸となる「家族の幸福度を上げる7つの因子」「家族の幸福度を下げる7つの因子」について。これらの因子は、前野さん夫妻とパーソル総合研究所が共同で行った「はたらく人の幸福学プロジェクト」の調査で明らかになった「はたらく人の幸せの7因子」「はたらく人の不幸せの7因子」がベースになっている。これは今年2月、国内の就業者(20~60代)に大規模なアンケート調査を行い、導き出したもの。

 「はたらく人の幸せの7因子」は、自己裁量、自己成長、リフレッシュ、他者貢献、役割認識、他者承認、チームワーク。「はたらく人の不幸せの7因子」は、自己抑圧、理不尽、不快空間、オーバーワーク、協働不全、疎外感、評価不満という結果に。

 本書は、この「はたらく人」の部分を「家族」に置き換え、家族の幸福としてまとめ直したもの。また、「因子」をパズルのピースととらえて「幸福のピース」と呼んでいる。「家族の幸福度を上げる7つのピース」をできるだけ増やし、「幸福度を下げる7つの因子」をできるだけ減らすことが、「幸せな家族になっていくための道」としている。

 「『家族の幸福度を上げる7つのピース』を知った上で、考え方や行動をほんの少し変えるだけで、あなたの気持ちは前よりもずっとラクになると思います。そして結果的に、あなたの家族の幸福度も、少しずつ上がっていくでしょう」

幸福度を上げる7つのピースとは

 少し長くなるが、「家族の幸福度を上げる7つのピース」と「幸福度を下げる7つの因子」にひととおりふれておこう。

■幸福のピース1 「自分軸因子」が家族をイキイキさせる
 家庭で自分の考えや意見を述べることができ、自分の意志やペースで計画・遂行することができている状態。

■幸福のピース2 「成長因子」が家族をワクワクさせる
 未知な事象に対峙して新たな学びを得たり、能力の高まりを期待したりすることができている状態。

■幸福のピース3 「リフレッシュ因子」が家族の笑顔を増やす
 精神的・身体的にも英気を養うことができていたり、私生活が安定している状態。

■幸福のピース4 「思いやり因子」が家族を優しくさせる
 自分がかかわる他者や社会に対して良い影響を与え、役に立てていると思えている状態。

■幸福のピース5 「役割因子」が家族としての責任感を高める
 自分の生活にポジティブな意味を見出しており、自分なりの役割を能動的にとらえている実感が得られている状態。

■幸福のピース6 「認められている因子」が家族の心を安定させる
 自分は家族から関心を持たれ、好ましい評価を受けていると思えている状態。

■幸福のピース7 「協調因子」が家族の絆を強くする
 目的を共有し、相互に励まし・助け合える家族とのつながりを感じることができている状態。
■「家族の幸福」のために、やってはいけない7つのこと
 へとへと因子、自分なんて因子、不快環境因子、報われない因子、バラバラ因子、疎外感因子、理不尽因子。自分の家庭が不幸せな空間になっていないか、チェックする指標になる。

 幸福のピースごとに、家族と接するときの考え方、過ごし方、会話の仕方を具体的に紹介している。前野さん夫妻は研究者であるとともに、一人の夫・父、妻・母として、自分たちの経験談を存分に盛り込んで書いている。そのため研究者の専門書を読んでいる感覚ではなく、育児の先輩、人生の先輩から助言をもらったような、こんなときはこうするといいよと道を示されたような感覚で読めた。

まずは自分の言動を顧みる

 ここでは、幸福のピース4「思いやり因子」の「自分が変われば相手も変わる」を紹介したい。家族時間が増えるにつれて、自分の思いどおりに行かない点、相手の足りない点が目につき、イライラしがちな人も多いだろう。著者によると、自分が本当に相手に貢献したいという気持ちで接していれば、相手も自分に貢献してくれるようになるものであり、相手の貢献が足りないと感じるなら、自分の相手への貢献も足りないのだという。

 「家庭内の人間関係において、片方が100%悪いということはまずありません。だから、自分の言動を顧みることが重要なのです。まずは自分の悪いところを直していけば、相手の言動も変わり、互いを思いやれるようになるはずです」

 もう一つ、幸福のピース6「認められている因子」の「『あなたがいてくれてよかった』は万能の言葉」から。人にはもともと承認欲求があり、承認されると幸せになることがわかっているという。

 「人の承認欲求を満たす、非常に効果的な万能の言葉が『あなたがいてくれてよかった』です。何か特別なことをしなくても、ただそこにいてくれるだけでいいという存在自体の承認ですから、もっとも根本的で安定した承認になります」

 新型コロナの終息、仕事、人間関係など、いつなにがどうなるのかまったく見通せない。そうしたなか本書を読んで、不確かな今後を心配するより、いまここにいる自分、そして家族、すべての土台になるここのところをしっかりさせておこうと思った。本書は、自分のなかの凝り固まった部分や大切なことの見落としにハッと気づかされることの連続。不安で足元がふらつきがち、大事なことを見失っている......そう感じている人におすすめ。



 


  • 書名 家族の幸福度を上げる7つのピース
  • 監修・編集・著者名前野 隆司、前野 マドカ 著
  • 出版社名株式会社青春出版社
  • 出版年月日2020年11月 1日
  • 定価本体1400円+税
  • 判型・ページ数四六判・208ページ
  • ISBN9784413231749
 

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