本を知る。本で知る。

男の子を持つ母親を応援する一冊

息子のトリセツ

 男女の脳の「とっさの使い方」の違いを発見し、その研究成果を元にベストセラー『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』(いずれも講談社)など、「トリセツ」シリーズを発表してきた黒川伊保子さんの新著が『息子のトリセツ』(扶桑社新書)だ。男の子の脳には、母の知らない秘密がいっぱいあり、それがわかれば、子育ては格段に楽になる、楽しくなるという。

 著者の黒川伊保子さんは、1959年長野県生まれ。脳科学・人工知能(AI)研究者。奈良女子大学理学部物理学科卒業後、コンピュータ・メーカーでAI開発に従事。2003年から感性リサーチ代表取締役社長。多くの商品の感性分析を行っている。

男子は「空間認知優先型の脳」

 男性の脳と女性の脳に違いがあるのか、と思う人も多いだろう。最初に黒川さんは説明している。男女の脳のスペックに違いはないが、「とっさに使う神経信号モデル」の選択が違うという。それが脳の作りだす性差である、と説明する。

 男性と女性の違いを書いている本は、これまであまたあるが、きわめて科学的な装いで説明しているのが、黒川さんの「トリセツ」シリーズが支持されている理由だろう。

 ほとんどの男子は、「空間認知優先型の脳」で生まれてくる。これに対し、女性は「コミュニケーション優先型」の脳であるという。

 空間認知優先型とは、自然に「遠く」まで視線を走らせ、空間の距離を測ったり、ものの構造を認知する神経回路を優先したりする脳の使い方だ。

 コミュニケーション優先型とは、自然に「近く」に集中して、目の前の人の表情や所作に反応する神経回路を優先する脳の使い方だ。

 とっさにどちらかを優先するかは、あらかじめ決められているという。とっさに「遠く」を選択する脳と、とっさに「近く」を選択する脳。その違いが男女の脳の違いになっているという。

 本書は以下の構成になっている。

 第1章 男性脳を学ぶ
  ミニカーに夢中な男の子、「自分」に夢中な女の子、など
 第2章 「生きる力」の育て方
  8歳までにどれだけ「ぼんやり」されたかで勝負が決まる、など
 第3章 「愛」の育て方
  「夫を立てれば、息子の成績があがる」法則、など
 第4章 「やる気」の育て方
  甘い朝食は、人生を奪う、など
 第5章 「エスコート力」の育て方
  母という聖域、など

愛があふれる「トリセツ」

 「トリセツ」と聞いて、家電製品の取扱説明書ではあるまいし、ヒトをぞんざいに扱っているような印象を受ける人もいるかもしれない。しかし、そうではない。どの章からもあふれるような「愛」が伝わってくる。

 たとえば、すでにある程度の年齢の息子を持つ親にも、「間に合わなかった」と後悔するのではなく、終わった年齢のことは「は~ん、この手があったのか。なるほどね」くらいの気持ちでスルーしよう、と呼び掛けている。

 ほかの「トリセツ」シリーズとの違いは、黒川さんの息子に対する子育ての実例がふんだんに出てくることだ。その結果、「タフで戦略力があり、数学も料理も得意で、ユーモアも愛嬌もあり、とろけるようなことばで、優しくエスコートもしてくれる。母も惚れるいい男」になったという。

 もちろん、自分の経験を語っているばかりではない。以前対談した筑波大学附属駒場高校の先生の話を紹介している。「東大現役合格者に共通の傾向」として、「早寝・早起き・朝ごはん」と「運動能力」があるという。理系のセンスと身体を動かすセンスは、共に小脳を使うので、小脳を発達させる方法として「外遊び」の大切さを指摘している。

 母親を座標軸原点にして、世界観を広げていく男性脳。いくつの息子にとっても、その立ち位置は不動である、と書いている。息子を持つ母親へ大きなエールを送る一冊だ。

 BOOKウォッチでは、『妻のトリセツ』(講談社+α新書)、『家族のトリセツ』(NHK出版新書を紹介済みだ。



 


  • 書名 息子のトリセツ
  • 監修・編集・著者名黒川伊保子 著
  • 出版社名扶桑社
  • 出版年月日2020年11月 1日
  • 定価本体860円+税
  • 判型・ページ数新書判・230ページ
  • ISBN9784594086497
 

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