NHKで2016年から3回にわたり放送された「へんてこ生物アカデミー」。地球上のさまざまな「へんてこ」生物の一見不思議な姿や行動には、厳しい生存競争を勝ち抜いてきた、驚くべき理由があることを紹介してきた。本書『すごい! へんてこ生物――ヴィジュアル版』(祥伝社新書)は、その書籍版。豊富な写真で、魅力を伝えてくれる。
番組ではMCの林修さんが塾長になり、ゲストの研究生とやりとりをする。林さんの「まえがき」に感心した。我々はある種の「人間中心主義」に囚われているのではないかというのだ。「人間すぎる花」としてオルキス・イタリカという地中海地方に分布するラン科の植物を取り上げている。ひとつの花の大きさは約2センチだが、ストライプの大きな帽子をかぶった人の姿にそっくりなのだ。特に手足は人間そのもの。英語では「Naked Man Orchid(裸の男の蘭)」という俗称で呼ばれているそうだ。
別に花は人間を喜ばせるためにそういう形をしている訳ではない。植物の中でも新しく出現したラン科は、ほかの植物との生存競争に勝ち残るため、環境に適応し、地球上でもっとも進化した植物といわれている。オルキス・イタリカはたまたま人間の形をした花びらをつけたに過ぎない。それを面白がるのは人間の勝手だ。
だから、人間は生物に学ぼうという姿勢が、番組や本書を貫いているように思えた。章タイトルも秀逸だ。紹介している主な生物は以下の通り。
第1章 生命38億年の歴史 第2章 逃げるは恥だが役に立つ ウーパールーパー、オウムガイ 第3章 働き方改革 ハダカデバネズミ、ナマケモノ 第4章 愛するということ フクロミツスイ 第5章 極上の孤独の果て デメニギス、チョウチンアンコウ 第6章 ともに生きるということ クオッカ、マナティー 第7章 見えざる才能 モジホコリ、ウォンバット 第8章 戦うということ イシヤモリ、アフリカウシガエル 第9章 隠れるということ コノハチョウ、エダナナフシ 第10章 進化の不思議――どうしてそうなった? オルキス・イタリカ、キンギョソウ
第2章「逃げ恥」に登場する2つの生物が印象に残った。日本ではテレビコマーシャルで有名になったウーパールーパーは、メキシコサラマンダー(メキシコサンショウウオ)という両生類。子ども(幼生)の姿のまま大人になる「幼形成熟」という特徴をもっているという。だから子どもだけでなく大人にもえらがある。一生を水の中で過ごす珍しい両生類だ。「大人にならない生き方」という見出しが付いている。
それぞれの生物に林塾長がコメントしている。ウーパールーパーには「顔映ゆし(かほはゆし)」という古語。「顔が赤らんでしまうほど、見ていてかわいそうだ、気の毒だという意味」。中世からポジティブな意味でも使われるようになり、現在の「かわいい」という言葉につながったという。
また、5億年前のカンブリア紀から生き延びているのがオウムガイだ。化石では10メートルにも達するものがあり、当時生態系の頂点に立っていたと推測される。その後、「甲冑魚」などの魚類に追われ、オウムガイが逃げた先は水深100~400メートルの深海だった。今は20センチほどの大きさ。視力が弱く、泳ぎも遅いオウムガイでも競争相手が少ないので生き抜いてきた。
林塾長は「明哲保身(めいてつほしん)」という言葉で表現している。「聡明な人は危険をうまく避けて、自身の身を守ること」という意味。
「浅瀬から深海へと、生きる場所を変えたオウムガイ。危険な戦いには出ていかないで、自分のことをよく知り、勝負する場所を選ぶ。負け戦はしない冷静な判断も、時には必要なのかもしれません」
このほかにもみずからの体に藻を育て「自給自足」を体得した"森の仙人"ナマケモノ、孤独な深海で透明の頭と可動式の目を獲得したデメニギス、100匹ほどの群れでアリやハチのような徹底した階級社会をつくっているハダカデバネズミなど25の生物の生存戦略が書かれている。
番組ディレクターの佐久間務さんの「あとがき」によると、ナマケモノの生存戦略に感心したゲストのハライチの二人は、「もうナマケモノとは呼べない。"ホンキモノ"だ!」とコメントしたという。「弱肉強食」と思っていた自然界には武器や俊敏さももたないながらも、しっかりと生き延びている生物がいることを表したキャッチフレーズと紹介している。
BOOKウォッチでは、『わけあって絶滅しました。』(ダイヤモンド社)、『絶滅野生動物事典』(角川ソフィア文庫)、『絶滅できない動物たち』(ダイヤモンド社) 、『残酷な進化論――なぜ私たちは「不完全」なのか』(NHK出版新書)などを紹介済みだ。
絶滅した生物と生き残った生物。「へんてこ」に見えるところにそれを分かつカギがあったのだろうか?
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