読むべき本、見逃していない?

人間も「ざんねんな生き物」だった!

  • 書名 残酷な進化論
  • サブタイトルなぜ私たちは「不完全」なのか
  • 監修・編集・著者名更科功 著
  • 出版社名NHK出版
  • 出版年月日2019年10月10日
  • 定価本体800円+税
  • 判型・ページ数新書判・218ページ
  • ISBN9784140886045

 全国紙に大きな新聞広告が出ていた。『残酷な進化論:――なぜ私たちは「不完全」なのか』(NHK出版新書)は版元が力を入れて宣伝中の本だ。著者の更科功さんは古生物学者。同じ版元から2018年1月に出した前著『絶滅の人類史―なぜ「私たち」が生き延びたのか』もBOOKウォッチで紹介したが、8万部を超えるロングセラーとなっている。今回もそれなりの売り上げが期待されているようだ。

必ずしも「ナンバーワン」の存在ではない

 更科さんは1961年生まれ。東大大学院の理学系研究科博士課程修了。専門は分子古生物学。著者紹介によると、現在の肩書は東大総合研究博物館研究事業協力者。明治大学や立教大学の兼任講師もしている。2012年に刊行した『化石の分子生物学』(講談社現代新書)は講談社科学出版賞を受賞。このところ毎年のように著作を出している。

 本書は「序章」でまず「なぜ私たちは生きているのか」と根源的な問いを投げかける。そして「第1部 ヒトは進化の頂点ではない」、「第2部 人類はいかにヒトになったか」に分けて人類や進化についての常識を解きほぐし、「終章」で「なぜ私たちは死ぬのか」につて解説している。

 「はじめに」で、いきなり未来の話が登場する。それもバラ色の話ではない。地球に巨大隕石が衝突することになり、人類は、すでに地球から逃げ出し、アルファ星に移住している。一緒にマツとミミズも移住した。マツは光合成で酸素を作り出せるし、ミミズは土壌改良ができる。ところがヒトは何もできない。そこでアルファ星人から小ばかにされている――という話だ。

 今の地球で「頂点」に君臨していると思い込んでいるヒトも、生存条件を変えてゼロからやり直すと、必ずしも「ナンバーワン」の存在ではないということを、やや単純化して示唆している。

人体進化の不都合な真実

 本書は、「ヒトの不思議」について、何億年という進化のプロセスをたどりつつ、他の生物と比較しながら読み解く。ヒトは地球上で、すべてにおいて生物として最も優れているわけではないという。「肺」という臓器ひとつとっても、「鳥類や恐竜の肺にはかなわない」そうだ。以下のような刺激的な見出しでその詳細を語る。

 ・ヒトのほうがチンパンジーよりも、じつは「原始的」だった!
 ・ヒトは腸内細菌の力を借りなければ、食事も1人でできない!
 ・人類よりも優れた内臓や器官を持った生物は山ほどいる!
 ・生物の寿命も進化によってつくられた!

 「最新の研究が明らかにする、人体進化の不都合な真実」というキャッチコピーが付いている。ヒトにつきものの「心臓病」や「腰痛」や「難産」は、そうなるようにヒトが進化した結果なのだという。著者は該博な科学知識を縦横に操りながら、ヒトにまつわる面白知識を教えてくれる。

 たとえば「ヒトの赤ちゃん」。とても無力なので長期にわたって大人が世話する必要がある。確かに生まれたばかりの子馬がすぐに立ち上がって動き出したりするのに比べると、ヒトの赤ちゃんはいつまでも親離れしない。

 もう一つ、ヒトの特徴は短い間隔で子を産むことが出来ること。チンパンジーの出産間隔は5~7年だという。今は少子化だが、戦前は5人とか7人とかのきょうだいがいる家は珍しくなかった。連続して産めば、母親だけでは子どもの世話ができない。

 そこで二つのことが参照されている。一つは「おばあさん仮説」。多くの霊長類のメスは死ぬまで閉経しないで子を産み続けるが、ヒトの女性は閉経して子を産めなくなってからも生き続ける。これは次々と生まれてくる「孫の世話」のためだという仮説だ。

 もう一つは、余り明確には書かれていないが、「一夫一妻制」との関連。妻だけでは子育てが出来かねるので、夫も育児に参加せざるを得ない。もちろんその役割は夫以外の誰かでもいいので、ストレートに結びつくわけではないが、核家族化が進み、ベビーシッターを雇うゆとりもないとすれば、これからは父親の出番は多くならざるを得ない。

 本書はこのように卑近な例から、ヒトの生物学的な意外性について説明する。ヒトは万能でもなく、いろいろと弱点もあり、その意味ではヒトもまた「ざんねんな生き物」の一種なのかもしれないと思った。

 BOOKウォッチでは関連で『わたしは哺乳類です』(インターシフト)『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社)、『分かちあう心の進化』(岩波科学ライブラリー)、『生命の歴史は繰り返すのか?』(化学同人)なども紹介している。

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