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  • 書名 われわれはなぜ嘘つきで自信過剰でお人好しなのか
  • サブタイトル進化心理学で読み解く、人類の驚くべき戦略
  • 監修・編集・著者名ウィリアム・フォン・ヒッペル 著、濱野大道 訳
  • 出版社名ハーパーコリンズ・ジャパン
  • 出版年月日2019年10月19日
  • 定価本体1860円+税
  • 判型・ページ数四六判・368ページ
  • ISBN9784596551481

 炎上、フェイクニュース、格差社会...ヒトの残念な習性は、人類が進化の過程で身に着けたもので、生存戦略に基づくものだったとしたら。

人類の進化と心理の発達

 本書『われわれはなぜ嘘つきで自信過剰でお人好しなのか』(ハーパーコリンズ・ジャパン)の邦訳タイトルは、いかにも刺激的だが、もともとのタイトルは『The Social Leap(社会的跳躍)』と控えめで、学術的な内容だ。

 著者のウィリアム・フォン・ヒッペルは、オーストラリアのクイーンズランド大学の心理学の教授。論文や記事は欧米の主要紙に取り上げられている。

 本書は三部構成で、「第1部 われわれはどのようにヒトになったのか」、「第2部 過去に隠された進化の手がかり」、「第3部 過去から未来への跳躍」からなる。

 第1部は、チンパンジーとアウストラロピテクスなど人類の祖先との比較から始まる。チンパンジーは、集団で狩りをしたり敵の群れを攻撃したりするときのみ、少しだけ協力する。しかし、彼らは怠け者と協力者をほとんど、あるいはまったく区別しようとしないという。

 これに対して、アウストラロピテクスは集団的な石投げで狩りを行い、協力しない者を追放、処罰したと推測する。

 かつて、人間の脳は飢えや自然災害など、命にかかわる物理的脅威に応じて進化したと考えられてきたが、現在では社会的な課題――きわめて相互依存性の高い集団のほかのメンバーに対処するときに避けられない課題――に向き合うためだったという「社会脳仮説」が有力になっているという。

 熱帯雨林からサバンナへの人類の移動を著者が「社会的跳躍」と呼ぶ理由だ。

 以下、人類の進化と心理の発達を時系列に沿って解説する。比喩が巧みだ。たとえば、ホモ・サピエンスの生き方に現代で一番近いのは、マフィアや麻薬カルテルであるという。主たる抑止力になるのは、法律ではなくお互いの行動だ。殺されずに一日を生き延びるために、先祖たちは互いの行動を推測するようになった。裏にある論理的思考と目的を知るために「心の理論」を進化させてきた。

 この後、狩猟採集生活から農耕生活となり、私有財産が所有され、男女の不平等、階級の形成、都市の発達などによって、我々の社会とヒトの心理がどう変化したかを追っている。

 面白いと思ったのは、自尊心、罪悪感、恥といった「自己意識的感情」が乏しい社会病質者(ソシオパス)は、古代の狩猟採集民の時代からいたが、自分がとどまることを許してくれる共同体を見つけるのに苦労した。その後、都市ができると匿名性が高いので、容易に生き延びることが出来るようになった。しかし、現代においてソーシャル・メディアの発達により密接に結びついていた先祖の世界へと押し戻した、と書いている。

出会い系サイトで出会った方が離婚しない

 第2部では、さまざまな先行研究や調査データを紹介しながら、社会のイノベーションについて論じている。著者はSNSと出会い系サイトこそがインターネット上でもっとも大きな社会イノベーションだと考えている。

 シカゴ大学が、2005年から2012年までに結婚した2万人の夫婦を調査したところ、3分の1がネット上で出会って結婚。別居・離婚した人の割合は直接対面組が7.7%に対し、オンライン組は6%だった。また、満足度でもオンライン組が高かった。ネット上で始まった関係の方が長続きする確率が高いというのだ。

 邦題の中にある「自信過剰」についてシカゴ大学などの研究を紹介している。被験者の顔写真を撮影し、どれが自分の写真かを選ばせたところ、もっとも頻繁に選ばれたのは10~20%魅力が上乗せされた合成写真だった。わたしたちの多くは自らの魅力について自分を騙していることになる。

 ハーバード大学教授のロバート・トリヴァースは、1970年代に「私たち人間はより効果的に他者を欺くために自分を欺く」という仮説を出し、これを裏付ける研究もあるという。自己欺瞞は自信過剰のためだけにあらず、対人関係に大きな利益をもたらすと、書いている。

 このほかにも「心の機能が生まれてからほどなく、人類は嘘をついた」「高齢になってからの孤独は喫煙よりもはるかに危険である」「IQの高さは必ずしも仕事の成功につながらない」などが、研究にもとづき解説されている。

 巻末の膨大な参考文献を見ると、日本の俗流心理学者が書いた本とはまったくレベルが違うことが明らかだ。学術的なエビデンスに基づいているが、非常に読みやすい。欧米にはこういう学者がたまにいる。

 著者は最後に、楽しい人生にたどり着くための「10の簡単なステップ」を紹介している。そんな虫のいい話などありえないが、少なくとも人類の進化という観点からすれば、なるほどと思える内容だ。

 1 現在を生きる...将来にあまり不安をもたないこと
 2 心地よいひとときを探す...進化の命令が、満足や喜びといった前向きな感情をもたらす
 3 幸せを譲って健康を保つ...たいして重要でないことのために自分の幸せを犠牲にしない
 4 モノではなく経験を蓄積する...写真やお土産など思い出の品を身近に置いて追体験する
 5 食べもの、友だち、性的関係を優先する...この三つは幸せの基本。お金と自由ではない
 6 協力する...他者と協力するという進化の命令にしたがうとき、人はさらに幸せになる
 7 共同体の一員になる...現在の居場所を離れて別のところに行くときは慎重に考える
 8 新しいことを学ぶ...学習は生涯にわたって続く幸せの源である
 9 強みを活かす...強みは時とともに変わることが多い。変化を恐れない
 10 幸せの原型を探す...家族や友だちと一緒にくつろいで過ごす時間は、幸せの最良のレシピ

 学者だが、セラピストのように親切な人柄が感じられる。

 BOOKウォッチでは、チンパンジーとヒトの心を比較研究した松沢哲郎著『分かちあう心の進化』(岩波科学ライブラリー)、心理学関連で『あなたもこうしてダマされる』(草思社)などを紹介している。

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