読むべき本、見逃していない?

ダマされないために「幻想」を捨てよ

あなたもこうしてダマされる

 「地面師」と呼ばれる詐欺師らのグループが大手住宅メーカーから大金をだましとっていたことが分かり、55億円という被害額に驚きやあきれる声が上がっている。なぜ、そんな大金を...、だまされているのが分からなかったのか...。

 本書『あなたもこうしてダマされる』(草思社)は、米国の心理学の専門家が「だましの手口とだまされる心理」を解説したもの。テーマは詐欺だけではなく、広告や販売にも及ぶ、売り込みから購入へのプロセスは、だまし、だまされる過程に通じるからで、2006年に日米で出版され好評を得ていた。その内容はなお、詐欺被害を防ぐためのマニュアルとしても使えそうだ。

「人はいかに操られ...あとになって悔やむのか」

 原題は「The Power of Persuasion」。日本語では「説得力」といったところか。著者のロバート・レヴィーン氏は米カリフォルニア州立大学心理学教授。その究極の関心事は「人はいかに操られ、自分がやるとは思ってもいなかったことをやってしまい、あとになって悔やむのか―ということ」で、本書では「人間の不完全さとその背後の心理を物語る例」を数々紹介し解説した。

 著者の探究心は旺盛で、米国のキッチン用品販売大手で、独特の訪問販売方法を開発して成長を続ける会社に販売員になるため潜入。販売先を拡大するために作られたセールストークのマニュアルは、コンプライアンス(法令遵守)に徹しながらマルチ的な増殖を導けるようになっており非常に巧妙だ。同社の販売員は訪問先で商品のプレゼンテーションはするが購入を求めない。その代わりに、友人や知人らを紹介してもらいプレゼンに訪れる。訪問先でのトーク術はさまざまあるのだが、同社の統計によれば、アポイントメントがとれた60%が販売につながるという。

 同社の商品は「高級品」。価格的にもおトク感はあるらしい。販売員の候補者はそのことは理解している。そして販売研修の教官はこう述べる。「(商品を)家族や友人に見せると、きみは彼らのためになる行為をすることにならないかね。とくにセールスの圧力がまったくかからないなら?」。研修者が気乗りしないとみると、こう問いかける。「きみがレストランで働きはじめ、そこがいい店なら、好きな人たちに、その店のことを話したいと思うだろう?」

そして、販売員へと背中を押す結論の言葉はこうだ。

 「(商品を)家族や友人が買えば、それはいい買い物をしたってことだ。買わないにしても、知識を得たことになる。彼らはいずれこの会社の販売員に出会うだろう。どうせなら自分の知っている人と会った方が双方にとっていい」

 そして、アポイントとりの実地研修。電話の相手に研修の練習であること、購入の必要がないことを強調、販売や実演という言葉は使わず「すぐ終わります」と加えて「協力」を求めるよう教えられる。

災難の可能性を過少評価、自分の成績は過大評価

 セールストークを武器にした商品販売のビジネスなどは、こうして巧妙に「説得」のワザを準備している。著者は、自ら被害に遭った経験から、詐欺師たちもまた巧妙であると述べ、その様子は脅迫的ではなく信頼できる態度に徹し、家庭を大事にしていることを装い、根気よく周到に金をだまし取る状況をつくりあげたことを説明する。

 こうした働きかける側の「説得力」に比べ、働きかけを受けるわたしたちの側の「武装」は全く不十分だ。「自分だけは大丈夫」という幻想をいつまでたっても捨てきれず、著者は「なかには繰りかえしだまされる人もいる」と指摘する。

 本書が引用している調査結果によると、ほとんどの人は自分はほかの人より病気にかかりにくいと信じており、米国人の平均寿命が75歳と知らされてなお、自ら推定する寿命の平均は84歳だった。また、一般の人々は自分が解雇される確率はほかの人より32%低いと考え、カリフォルニア州の地震危険地域に住む人たちは将来大地震が起こる可能性をかなり低く見積もっていた。つまり「わたしたちは、およそあらゆる災難に自分がみまわれる可能性を過少評価しているのだ」と著者。

 「幻想」は、災難に遭う可能性の過少評価ばかりではない。学生の50%は自分が世慣れていると信じており、世間知らずと答えたのは22%。77%が「人心操作法を平均よりよく知っている」と、説得への耐性を主張。平均以下と答えたのは3%に過ぎなかった。

 認知心理学者らがコーネル大学の学生を対象に、英文法や論理的推論、ユーモアなどの分野の技能が反映する試験を行ったところ、どの分野でも、下位4分の1に入る学生たちが、自分の成績を最も過大評価しがちだったことが分かった。

 自分の弱さを認めない「幻想」は、それは無知につながる。チャールズ・ダーウィンは「無知は、知識より自信を生むことが多い」と言ったという。しかし、その自信は根拠がなく、著者は「無知は、同じ失敗の繰り返しを避けることを妨げもする」。かくて「自分は大丈夫」幻想により、繰り返しだまされることになってしまう。

  • 書名 あなたもこうしてダマされる
  • サブタイトルだましの手口とだまされる心理
  • 監修・編集・著者名ロバート・レヴィーン著、忠平 美幸 訳
  • 出版社名草思社
  • 出版年月日2006年8月 4日
  • 定価本体1700円+税
  • 判型・ページ数四六判・304ページ
  • ISBN9784794215154

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