スポーツを描いた映画は数多い。描かれる種目も多彩なうえ、作品のカテゴリーも、根性もの、ファンタジー、コメディー、ドキュメンタリー、社会派と多岐にわたる。本書『スポーツ映画トップ100』(文藝春秋)は、スポーツにも映画にも造詣が深いことで知られる評論家、翻訳家である芝山幹郎さんが、内外のスポーツ映画100本を選んで解説したもの。
現代は放送に加えて通信による動画配信サービスが充実、過去の映画作品も手軽に楽しめる時代。リモコン操るかたわらに本書を備えれば格好のガイドブックにもなる。
著者は「順位は恣意的」と断り「お好きにシャッフルを」と案内しているが、著者の評価の表れなのだろうし気にならないわけがない。目次をみてのシャッフルは後回しに順位をみる。ページを追って降順に並べられているが、1~10位は「何度もリピートしたくなる」、11~30位を「見ないなんてもったいない」などと意義付けされている。
トップに据えられたのは、女子ボクサーを描いたクリント・イーストウッド監督作品「ミリオンダラー・ベイビー」(2004年)。「視野が広く、情感が豊かで、語りが沈着で、見る側の心に深く沁み込んでくる。傑作ぞろいのイーストウッド映画のなかでも一、二を争う秀作」という。イーストウッド監督といえば、最近も「ハドソン川の奇跡」(2016年)や「15時17分、パリ行き」(17年)が好評だった。「一、二を争う秀作」と聞けば、オンデマンドのリストを探してしまいそうだ。
トップ10のほかは、2位に「カリフォルニア・ドールズ」(1981年)、4位に「ロッキー」(76年)、6~8位が「クリード チャンプを継ぐ男」(2015年)「レスラー」(08年)「レイジング・ブル」(1980年)と、なんと「何度もリピートしたくなる」10本のうち半数以上が格闘技系だった。
国内の作品で最も上位に登場するのは、赤井英和主演の「どついたるねん」(89年)。元ボクサーの赤井が、本人を思わせるボクサーを演じた、こちらも格闘技系だ。赤井の自伝的側面もある作品で、ロードワークや減量シーンのリアルさが際立つ一方、娯楽性の高さが評価されている。
国内作品のエントリーで、これ、スポーツ映画だったんだと認識を新た(?)にしたのが、菅原文太主演の「ダイナマイトどんどん」(78年)。昭和25年の北九州・小倉が舞台で、描かれるのはやくざの抗争だ。「小倉が呉と入れ替われば『仁義なき戦い』(73年)の混沌と怒号がすぐさま浮上するに違いない」と著者。だが、こちらの抗争は、警察署長の指導により、野球の試合で決着をつけることになる。
「なかなか破天荒な展開」ではあるのだが、著者によると、作品には草創期の米大リーグを連想させる逸話をはさみ込む演出が施されているという。名物選手を思わせるキャラクターを配しているほか、伝説になっているトリックが散りばめられている。ホームシアターでは、それらがチェックポイントだ。
国内作品からの意外なエントリーのもう1本は、高倉健主演の「ごろつき」(68年)。制作当時はキックボクシングが大ブームの時代で、同作品では、キックボクサー志望の九州男児が裏社会の争いに巻き込まれる様子が描かれる。著者は「監督は名匠マキノ雅弘。マキノと高倉健は20回ほど組んでいるが『ごろつき』はマキノの職人技と、二枚目半の体質を備えた高倉健の愛嬌がよく噛み合った作品だ」と述べている。
「ダイナマイトどんどん」は49位、「ごろつき」は60位。31~60位は「ダークホースを探せ」というカテゴリーにされている。
高倉健のスポーツ映画といえば、主演ではないが「ミスター・ベースボール」(92年)を思い浮かべる人も多いかもしれない。本書では取り上げられていなかった。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控えて、1964年の大会を収録した、市河崑監督のドキュメンタリー作品「東京オリンピック」が取り上げられる機会が多くなっている。本書では32位。「スポーツドキュメンタリーの金字塔」と高く評価されている。黒澤明監督が、予算の問題などから辞退したとされ、それを受けて市川監督が制作指揮を務めた。著者は「劇映画ではときおり煩わしく感じられる彼の技巧(とくに神経質なほど鋭いカットバック)が、このドキュメンタリーでは奇跡的に生きている。白黒テレビでみた東京オリンピックはこんなに刺激的ではなかった」と述べる。
その芸術性の高さがあだになって当初は「記録映画になっていない」などとさんざんな言われ方もしたそうだが、現実を超越したような美しい再現性に高い評価が定着している。
2020年の東京五輪の公式映画監督にはこのほど、各国の国際的映画祭で数々の受賞歴を持つ河瀬直美監督が就任した。作品は大会の翌年の春に完成し国内外で公開される予定。
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