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カリスマ現代文講師が石川啄木の短歌を読めという理由

日本語力

 大学入試「現代文」のカリスマ講師として有名な出口汪(ひろし)さんの『日本語力 人生を変える最強メソッド』(水王舎)が出た。入試問題を「論理」で読解するというスタイルで絶大な支持を受けてきた出口さん。本書にはいくつもの問題が出題されているが、意外な作者の作品が多く採用されていることに驚いた。

感性と論理力の両方を磨く

 出口さんは、感性やイメージ、感情にかかわる「右脳」と論理、言語にかかわる「左脳」を自覚的に切り替えることで、感性と論理力の両方を磨くことができる、と説く。

 そして感性を磨くには短歌・俳句・詩といった韻文に親しむことが最も効果的だという。そして石川啄木の短歌から例題を出している。

 第3章「明晰な頭脳の作り方」で、いよいよ「論理」について説明している。論理とは「具体→抽象」といった頭の使い方だという。人間だけが言葉を持ったためにカオスから脱却した。こう説明する。

 天と地、男と女、動物と植物、好きか嫌いか、希望と絶望といったように、私たちは下界の一切をいったん言葉に置き換え、「イコールの関係」「対立関係」といった論理で整理した上で、物事を認識・整理し、そして考えるということを始めました。

 出口さんは「出口式みらい学習教室」を立ち上げ、小学生低学年の子どもを直接指導している。こんな問題を出した。

 次の文の中で最も大切な言葉は何か。またその理由を説明しなさい。
 小鳥が かわいらしく 鳴いた。

 答えは「鳴いた」である。一文の要点であり、日本語では述語が中心となるからだ。複雑な文や長い話でも、まず主語と述語を見つけることだ、と書いている。

 評者は大人の作文の添削を長くつとめたが、主語と述語が対応しない文章をたくさん目にしてきた。だらだらと一文が続き、主語に対応する述語が現れないままに、また別の記述が始まるケースが多い。書いている人のアタマが整理されていないことがわかる。

 出口さんは、主語と述語は抽象概念であり、それだけでは表現は成立しない、と長塚節の「土」から例題を出し、「飾り」の部分の重要性を説明する。具体的であればあるほど、一つしかない場面を描写することができるからだ。

大人こそ童話を読め

 第4章では、五感を取り入れることで、瑞々しい表現になる、として、「大人こそ童話を読みなさい」と書いている。おすすめは新美南吉。嗅覚、聴覚、触覚も大切だという。

 出口さんと言えば、「論理」というキーワードで知られていたが、「感性」も重要視していることがわかった。本書の例題には、石川啄木、中原中也、梶井基次郎の3人の作品が多く紹介されている。偶然だが、3人には共通点があるという。3人ともそろって病気で30歳になってまもなく夭折していたのだ。

 凝縮した人生だったからこそ、あれほどの感性を磨いたのでは、と書いている。彼らの残した文学作品を「日本語の練習問題」として活用し、彼らの感性をそのまま自分のものにすればいいという。

大学入試から小説消える?

 いま、文学作品が大学入試から消えてゆくのでは、と文学関係者から危惧する声が出ている。2021年入試から「共通テスト」が導入される。センター試験は、現代文の問題は2題あり、ひとつは評論、もうひとつは小説だった。しかし、これまでに発表された「共通テスト」の例題では、自治体の広報や駐車場の契約書といった「実用文」が出ている。これに対して、単に情報を処理すればいいのか、と反発する関係者が少なくない。

 たしかに論理を磨けば、こうした実用文に対応するのはたやすいだろう。しかし、「論理」教の教祖・出口さんが、「感性」の大切さを本書で説いているのを知り、「共通テスト」への危惧の念を深くした。夏目漱石ら文豪の文章が教科書から消えたとしたら、日本語の魅力を次の世代に継承するのは難しくなるだろう。

 「共通テスト」にかんしては、英語の民間試験の活用の可否についての議論が出ているが、国語の問題についても注視していきたいものだ。

 BOOKウォッチでは、「共通テスト」について、『教育激変』(中公新書ラクレ)を紹介している。

 なお、本書は2013年11月にサンマーク出版から刊行された『日本語の練習問題』を改題、大幅に加筆、再編集したものだ。

  • 書名 日本語力
  • サブタイトル人生を変える最強メソッド
  • 監修・編集・著者名出口汪 著
  • 出版社名水王舎
  • 出版年月日2019年10月10日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数四六判・247ページ
  • ISBN9784864701082
 

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