生物進化は意外に速く、繰り返しもある。本書『生命の歴史は繰り返すのか?』(化学同人)は「フォーブス」誌の2017年度生物学書のベストブック・トップ10に選ばれるなど海外の評価が高い本だ。著者のジョナサン・ロソスは生物学者。ハーバード大学教授、ハーバード比較動物学博物館両生爬虫類学部門主任を経て、現在セントルイス・ワシントン大学教授。『ネイチャー』『サイエンス』などトップジャーナルに多数の論文を発表している。
本書によれば、大昔の人はクジラを魚だと思っていた。しかし、「仔をうみ、乳腺がある」ことから、分類学の父といわれるリンネが哺乳類に分類した。自然淘汰によって海で暮らしやすい体に進化を続けた結果、機能や形がお互いに似てくる、このような進化を収斂進化という。
トカゲの生態研究から進化生物学者になった著者のロソスは、収斂進化は多くの生物、環境で起きており、その進化の速さは、これまで考えられていたよりはるかに速いという。
2013年、これまで同じ種だと考えられていたスリランカ、インドネシア、オーストラリアにいるイモウミヘビの遺伝子を解析したところ、インドネシア、スリランカのイモウミヘビは地元の種の違うウミヘビに近く、オーストラリアのイボウミヘビは地元の別種のウミヘビと遺伝的に近いことが分かった。つまり、外見も毒の種類もそっくりなのに、別種のウミヘビから別々に収斂進化して生まれたものだったのだ。
見たこともないウミヘビの話など、信用できないという人のためにもう1例。トリニダード・トバコの渓流にすむグッピー。下流の淵には地味なグッピーしかいないのに、上流の淵にはオレンジや青に彩られた黒い斑点や縞模様の派手なグッピーがいる。
この違いは捕食魚の有無にあるのではないかと考えた研究者たちは、同じグッピーを、強力な捕食魚のいる水槽と、捕食魚のいない水槽などに分けて育てた。グッピーはわずか2年で、派手な模様のオスがいるグループと、地味な模様の魚ばかりのグループにはっきりと分かれた。環境や捕食者が同じなら、同じ自然淘汰圧がかかり、収斂進化が繰り返されることが証明されたと、ロソスはいう。
自然淘汰の力は、動物にだけ働くわけではない。ロンドン郊外の170年以上も続く農場で、牧草地の一角をウサギに食べられないように囲った区画を造った。その結果、ウサギがいる牧草地は手入れの行き届いた芝生のようになったが、ウサギから守った区画の植物は伸び放題。驚いた事に、その中に生えていたスイバは25年間で30%も成長速度が遅くなっていたという。
これを読んで評者はハッとした。
じつは、恥ずかしながら、我が家にも小さな芝生の庭がある。その芝は、毎年数回以上、35年以上も芝刈りを続けている。近年、そこに生えるイネ科の雑草・スズメノカタビラが、発芽して小さなうちから種をしっかりつけるようになっているのだ。あれって、私がウサギ役となって、刈り取られる前から子孫を残せるようにスズメノカタビラを進化させてしまったのか......。
いずれにせよ、環境による収斂進化が強力だということは、生命は、地球温暖化などの環境変化に対して、私たちが考える以上に脆弱だといえる。
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