志駕晃さんの本書『あなたもスマホに殺される』(角川文庫)は、ネットやスマホに潜む危険にフォーカスしている。不穏な空気が終始漂い、じわじわと恐怖が忍び寄ってくる。読了後、評者は何度か怖い夢を見たが、それほど強力に読者を闇へと引き込む作品だ。
中学教師・鈴木は、慢性的な不眠症に悩んでいた。ある日、「自殺相談室」という謎のSNSから招待が届いた。「ゲーム感覚の新しいソーシャルネットワークサービス」と謳う「自殺相談室」は、自殺志願者の匿名の相談に対し、4択から1つの意見を選ぶもの。例えば、いじめに遭っている中学生の相談には「〇先生に相談する 〇友達に相談する 〇親に相談する 〇自殺する」の4択。
鈴木は強い警戒心を抱くとともに、強い好奇心に駆られる。相談者に次々と助言をしていくうちに、他人の人生を覗き見ることに快感を覚え、すっかり「自殺相談室」の虜になっていく。
最初は個人的な趣味としてひそかに楽しんでいたが、次第に問題になっていく。ゲームとパソコンに詳しい女子生徒・雨宮を「自殺相談室」に招待して以降、「自殺相談室」が学校中に蔓延する事態となったのだ。
「伝染病がじわじわと感染を拡大するように、大きな禍いがこの学校や自分の周囲に起こりそうな予感を感じていた」
鈴木の予感は的中し、モンスターペアレントに悩んでいた新人教師・山本が自殺した。山本は何者かによって「自殺相談室」に招待されていた。
「覚悟を決めて、このSNSの本当の姿を突き止めなければならない」
「便利なばかりと思っていたネットの世界が、いかに洗脳に利用されやすい罠に満ちているかを思い知らされた」
「自殺相談室」によっておかしくなっていく生徒や同僚を目の当たりにし、鈴木は彼らを正常に戻そうと動く。しかし、とうとう鈴木自身に魔の手は迫っていた。
「自殺相談室」の正体は? 鈴木の結末はどうなるのか? 彼を取り囲む人物がカギを握る。
・鈴木の妻・響子
元教師。冴えない鈴木にはもったいないほどの美人。スマホに疎い。
・鈴木の息子・幸太
ルックスも良く、勉強もできる。
・元同僚・押尾
鈴木が12年前に赴任した中学のテニス部顧問。鈴木は副顧問だった。
・大学の友人・中河内
脳科学に詳しく、「自殺相談室」についての鈴木の相談相手。
最後の一文を読み、そこで初めて物語の全容が明らかになる。緻密な仕掛けが随所に散りばめられ、読み返すたびに謎が解けていく。
最後に紹介したいのが、ネット社会、スマホ社会の今後を鋭く見通しているこの部分。
「現代人は時間が有限だってことを理解していない。考え方によっては、時間はお金よりも重要なのに、平気で何時間もスマホをいじって時間を潰す。本来だったらその時間で、本を読んだり勉強をしたり、家族との団欒を楽しむべきなのに、巨大プラットフォーマーのために、貴重な時間を搾取され続けているんだ」
本書はネットやスマホの危険を具体的に提示していて、スマホ依存への抑止力になりそうだ。本欄では『スマホが学力を破壊する』(集英社新書)、『スマホに負けない子育てのススメ』(主婦の友社)を紹介済み。
著者の志駕晃さんは、1963年生まれ。『このミステリーがすごい!』大賞・隠し玉作品『スマホを落としただけなのに』(宝島社文庫)で2017年にデビュー。昨年(2018年)本作は北川景子さん主演で映画化された。「志駕晃」はペンネーム。本名では、ニッポン放送の関連会社で専務取締役を務めている。
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