東北芸術工科大学非常勤講師でアナキズム研究者の栗原康さんが、新著を出した。本欄でも栗原さんの本は『何ものにも縛られないための政治学』(株式会社KADOKAWA)、『菊とギロチン』(タバブックス)と昨年来(2018年)2冊紹介しているが、筆がいまノリにノッているらしい。
本書『執念深い貧乏性』(文藝春秋)は、文芸誌「文學界」の同名連載をまとめたもの。評論でもエッセイでもない、テンションの高い「アジテーション」集と呼びたい気がする。
章タイトルをいくつか並べるだけで、どんな本なのか雰囲気はわかるだろう。
第1章 どすこい貧乏、どすこいセックス――女力士はエイリアン 第3章 自分の人生を爆破せよ――チャハハ! 第5章 いくぜ犯罪、こいよ非国民――大泥棒、エドワード・スノーデン 第8章 一揆だべ!――鼻の命はノーフューチャー
女相撲は明治時代から1950年代まで、興行として行われていた女相撲のことで、いまの感覚でいえば、女子プロレスに近い。『菊とギロチン』は同名の自主映画のノベライズ本で、栗原さんが研究している大正時代のアナキストたちと、女相撲の力士たちがであったというフィクションがもとになっている。
女相撲では相撲の前に芸を見せた。腹の上に420キロの米6俵を載せ、木臼とさらに女力士ふたりが乗って餅をつく。死んでしまった力士もいたという。「敵なし、負けない、こわいものなし、女力士はエイリアン」という訳だ。
その女相撲は弾圧され、やがて消えていった。栗原さんは「奴隷の生をいきるなら、米俵におしつぶされて死んだほうがマシだ。(中略)貧乏にひらきなおり、わがままに生きろ」とアジテートする。
第3章では、大学の奨学金400万円を返せず、財産を差し押さえられた友人のことを書いている。50歳。大学院を博士課程まで出たが、ずっと非常勤講師をやってきた。週12コマとヘロヘロになるまで働いても年収300万円に満たないという。返済が滞り裁判になった。そして月5000円ずつ20年間返済することになった。最後の数年はやたらと返済額が上がる。50歳まで非正規でいて70歳近くになってとつぜん収入が上がると思っているのか、と栗原さんは怒る。栗原さん自身も奨学金の借金があるという。2017年から給付型奨学金も設けられるようになったが規模が小さく、ほとんどが有利子だ。為政者の意図をこう疑う。
「大学には、まだはたらいていない、わかい連中がゴロゴロとあつまっているわけだ。いっぱい負債をせおわせて、死ぬまではたらいてもらいましょう。やれ投資だ、やれ借金だ、将来のことを考えて、カネになることだけやりましょうと」
デヴィッド・グレーバーの『負債論』を紹介し、「あらゆる負債をなくしてしまえ。借りたものを返せというのは、おまえ奴隷になれといっているのとおなじことだ。細胞の声がきこえてくる。自分の人生を爆破せよ。なんどでもなんどでも、あたらしい生をいきなおすんだ」と訴える。
韓国映画「金子文子と朴烈」は2017年韓国で公開され、235万人を動員するヒットとなった。今年(2019年)2月から日本でも公開が始まった。最終章で栗原さんは大逆罪で有罪となり獄中自殺した文子の生涯にふれつつ、天皇制を批判する。あとがきでも別の出版社で天皇制批判の一文を削除してくれ、と言われ、つっぱねた経緯を書いている。
閉塞感を感じている人がいたら、本書を読めば力がわいてくるかもしれない。自分の人生、奴隷のままじゃ終わらない、と。講談調というか漫談調というか著者のテンポよい語り口は、「読むビタミン」といったところだ。
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