本書『お邪魔しMAXデラックス 底抜けオオサカ観光局』(朝日新聞出版)のキーワードは、関西の方言「イチビリ」だ。ふざけてはしゃぎまわること、お調子もの。目立ちがり。変わったことをするオモロイ人という意味で使われることもある。
評者は大阪にかつて勤務していたことがあるので、多少の土地勘はあるが、初耳のユニークな施設が数多く登場する。
本書は単なる名所観光案内ではない。「イチビリ」精神あふれるスポットの紹介だ。一癖も二癖もあるこだわりの創設者などが登場する。ヘンテコなものをつくったのはこのオッチャンか、なるほど、というわけだ。例えばこんな施設が出て来る。
「大阪冬の珍」 小阪城(大阪) 「鉄分多めの『私』鉄王国」 桜谷軽便鉄道(大阪) 「昭和の不夜城ここにアリ」 味園ユニバースビル(大阪) 「USJじゃございません‼」 舞洲工場(大阪) 「98歳マスターの宇宙的喫茶」 Tea Saloonマヅラ(大阪) 「コンペイトウ王謁見記」 コンペイトウミュージアム(大阪)
どれも知らなかった。どんなところなのか。「大阪冬の珍」は東大阪市にある「小阪城」のことだ。本物の城ではない。理容業のオッチャンが自宅をコツコツ改造した「城」だ。材料は近所の建て替えから出た廃材。天守閣はトタン板。絢爛豪華な黄金の茶室は一枚300円の色紙。いざ撮影となると、「衣装、着ましょか?」。自前のチョンマゲと着物姿に早変わりした。オッチャンは「一国一城の主」に収まりご満悦だ。
八尾市にある「コンペイトウミュージアム」は、コンペイトウメーカーの見学施設。かなり前に社長室をぶっ壊して作った。案内役は元社長(現在は会長)が自ら担当している。背広にネクタイの真面目くさったガイドではおもろうない。コンペイトウはポルトガルがルーツということで、鉄砲伝来のころの南蛮人にふんしている。時にはギター片手に自作のコンペイトウの歌を歌うこともあるそうだ。最近はコンペイトウの手作り体験が人気で年間2万5000人が訪れるなどビジネスとしても成功している。「コンペイトウや思て甘くみたらあきまへんで」というオチが付いている。
本書はタイトルでは「大阪」を前面に押し出しているが、「白いマットのジャングルへ」(プロレス美術館、京都)、「珍妙なネーミングにアラっ⁉」(ブンセンのアラ! 、兵庫)、「お前アカか?わしゃピンクや」(東洋民俗博物館、奈良)、「そして朽ちゆく天空の城」(旧摩耶観光ホテル、兵庫)、「山上へカーレーターで参上」(須磨浦山上遊園、兵庫)など近隣の施設も登場する。いずれも「関西」らしさが強烈に匂う濃いスポットだ。
著者の神田剛さんは1971年、大阪生まれ。大和証券を経て朝日新聞に入り、大阪本社の生活文化部などで「ますます勝手に関西遺産」「街の埋蔵文化人」など、風変わりなネーミングの企画に携わってきた。「おカタイ朝日新聞でひとり柔らか路線を貫き、関西の濃厚なスポット&人物を追いかけ続ける記者」というのが神田さんだ。
本人の写真も掲載されているが、風貌は「朝日記者」というよりは「元大和証券マン」の肩書の方がしっくりくる。神田さん自身もタイトルにあるような「底抜け」の「イチビリ」の一人であることは確かだ。
本欄では『大阪――都市の記憶を掘り起こす』(ちくま新書)、『大阪的――「おもろいおばはん」は、こうしてつくられた』(幻冬舎新書)なども紹介している。
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