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阪神は「巨人のコバンザメ」 大阪幻想をくつがえす

大阪的

 2025年の万博開催が決まり、大いに湧く大阪。そんな折、『大阪的』(幻冬舎新書)というタイトルの本が出た。便乗本ではない。著者はベストセラー『京都ぎらい』を書いた井上章一さん(国際日本文化研究センター教授)。さぞや辛口の「大阪論」が展開されているのかと思いきや、大阪のステロタイプなイメージを覆そうという「大阪愛」に包まれた本なのである。

 芸人顔負けのおばちゃん、アンチ巨人の熱狂的な阪神ファン、ドケチでがめつい商売人......こうした大阪のイメージは、東京のメディアが誇張し、地元のテレビ局が話を盛った作りもののイメージだと井上さんはばっさり切る。

 たとえば副題にもなっている「おもろいおばはん」は、後発のテレビ大阪が低予算の苦肉の策として、路上であった女性の中からおもしろい人だけを抜き出し放送する、夕方のニュースワイドショーが起源だという。その手法がやがて各局に取り入れられ、そうした映像ばかりが全国に流れるようになり、イメージが定着したと見ている。井上さんは、1980年代以降の新しい現象であり、かつて谷崎潤一郎は「大阪の女性は、ひかえめで品がある」と書いたことを紹介する。

 東京のキー局に比べて予算の少ない準キー局である大阪のテレビ局は、おもろい素人を登場させる手法を編み出した。「プロポーズ大作戦」「新婚さんいらっしゃい」などが思い浮かぶだろう。「紋切型の大阪人像が増幅していく過程でも、テレビのはたした役割は、あなどれない」と書いている。

 野球についても1章を割いている。もともと関西人の反読売感情を代表していたのは南海球団だったという。1949年に大投手別所を読売は南海から引き抜き、戦後初のペナント奪取に成功した(当時は1リーグ時代)。同年末に2リーグに分裂し、阪神は巨人と同じリーグに入った。そして「反読売という立場を、南海からうばいとっていくのである」と振り返る。しかし、阪神が本当に「アンチ巨人」かというと疑わしいそうだ。井上さんは読売新聞の渡邉恒雄氏に取材する機会が一度だけあり、新リーグ構想について訊ねたところ、当時の阪神のオーナーだけが直接、渡邉氏を訪ね、入れていただきたいと頭を下げたという。阪神は「読売のコバンザメだった」と怒りをぶつけている。

 ネガティブな話ばかりではない。ファッション雑誌の読者モデルとなる女子大生を多く輩出している阪急神戸線沿線の女子大や亡命ロシア人から音楽の指導を受けた戦前の宝塚少女歌劇のエピソードなど文化的な話題も盛り込んでいる。

二都の不和をなんとかしたい

 本書の「まえがき」を、大企業の本社が大阪から東京へ移転し、「少なからぬ大阪人が、そのことをくやしく思ってきた」という話で書き出している。大阪の東京への反感。一方、東京のメディアはひんぱんに京都を取り上げ、値打ちを底上げしてきたという。そのため、大阪と京都は「心情的な違和感」をもつようになったと書いている。二都の不和をなんとかしたいという著者の思いは関西の人たちに伝わるだろうか。

 本書は産経新聞(大阪本社発行・夕刊)に2016年4月から18年4月まで連載された「大阪まみれ」を改題し、加筆修正したもの。大阪の悪口はもとより書けないのである。

 本欄では『京都ぎらい 官能篇』も紹介している。   

  • 書名 大阪的
  • サブタイトル「おもろいおばはん」は、こうしてつくられた
  • 監修・編集・著者名井上章一 著
  • 出版社名幻冬舎
  • 出版年月日2018年11月30日
  • 定価本体800円+税
  • 判型・ページ数新書判・242ページ
  • ISBN9784344985223
 

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