オランウータン、ゴリラ、チンパンジーなど、サルにはたくさんの種類が現在でも共存しているが、私たち現代人(ホモ・サピエンス)は生物的には1種類しかいない。
そもそも、ホモ・サピエンスが登場する前には、ヒトも同時に多様な種が共存していた可能性はないのだろうか。その謎を解き明かすため、化石の分析や、発掘現場の調査を行い、その細かな証拠を整理しながらつづられたのが『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社)である。
本書は、アジアの人類化石に精通する国立科学博物館人類研究部人類史研究グループ長の海部陽介さんの研究活動について、文筆家の川端裕人さんが詳しく聞き取り、一般の読者にもわかりやすくレポートしたものだ。川端さんは日本テレビ報道局で科学報道を担当していたキャリアを持つ。本書は、科学ジャーナリスト賞2018(2018.4.25)および、第34回講談社科学出版賞(2018.7.20)を受賞している。
これまで発掘された人類の化石を、一気にひととおり見られる場所は、世界に一つしかないそうだ。それが海部さんが属する日本の国立科学博物館だ。
化石などの資料は、持ち込まれたり、発見した研究機関で個別に保管しているケースも多く、日本の国立科学博物館のように相互比較が気軽にできる環境は珍しいという。地道な借用交渉とレプリカ技術、そして、信用がなければ実現できないのは言うまでもない。
本書ではそうした国立科学博物館の力量と、海部さんの国際的な研究活動をもとに、人類史についての最新成果を示す。
アジアの原人では、ジャワ原人や北京原人が有名だが、実は、台湾でも原人が発見されている。しかも、海底から。底引き網漁で魚と一緒に水揚げされた。2015年に学会で発表されたその原人は、澎湖(ほうこ。中国語読みでポンフー)人。すでに04年に発表されているインドネシアのフローレス原人を含め、アジア第4の原人の発見だった。フローレス原人や澎湖人がどんな原人だったのかは本書に詳しい。ただ、驚くべきは、澎湖人がいた頃には、世界中に、まだ複数種のヒトが共存していたという。
澎湖人の生きた時代は、今から10万年~40万年前だと推定されている。40万年前だとした場合、アジアには北京原人、和県人、澎湖人、ジャワ原人、フローレス原人の5種が共存しており、10万年前だとネアンデルタール人、デニソワ人、中国の旧人、澎湖人、ジャワ原人、フローレス原人の6種が共存していたそうだ。現在の私たちのように1種ではなかったのだ。
本書では、最終章で、遺伝的特徴などを分析した結果を概観し、当時、交配が見られたのではないかと述べている。オーストラリア地方のアボリジニは、現地で進化を遂げたのではなく、アフリカから渡ってきたとの説が有力になっているが、頭骨の特徴が他のホモ・サピエンスと多少違うことも分かっている。その特徴について、海部さんは、ジャワ原人の頭骨と似ていることに気がついた。
海部さんは、私たちホモ・サピエンスとジャワ原人が交配して、その特徴をアボリジニが引き継いでいるのではないかという。
つまり、私たちホモ・サピエンスは、原人とも交配していたというのだ。ホモ・サピエンスが他種を絶滅させたという説もあるが、本書を読むと、混血も起きていて交わりがあったことに思いが至り、少しほっとさせられる。
古代人種のDNA解析は、本欄紹介した『ネアンデルタール人と私たちは交配した』(文藝春秋)に詳しい。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?