本書は、古代DNA研究の第一人者で、ネアンデルタール人の化石骨から核DNAを読み出し、我々現生人類とネアンデルタール人の間に交雑があったことを証明したスヴァンテ・ペーボの自伝である。読んで驚くのは、古代DNAの解析作業のとてつもない困難さだ。
なによりDNAは壊れやすい化学物質である。そして現代のDNAが極めて混入しやすい。そのため研究には徹底的な厳密さが求められる。本書の前半部分で、著者ペーボはネアンデルタール人のミトコンドリアDNA(核DNAよりもはるかに小さい)の解読までを回想するが、一貫してこだわるのがその作業への緻密さだ。
当時はヒトゲノム計画が動き始め、まさに遺伝子解析の技術が格段に進化した時期と重なる。そのため、研究者の中には映画「ジュラシックパーク」のように琥珀の中に残された恐竜のDNAを解析したなど派手だが厳密さに欠ける研究成果を発表して名を上げる者もいたが、ペーボは焦りながらもひたすらに正確な研究を突き進める。一歩一歩着実にデータの解析と混入の問題を解決していき、最終的な挑戦――ネアンデルタール人の核DNAの解析に乗り出した。
そしてついに2009年、ペーボはネアンデルタール人の核DNA解析に成功するが、それは衝撃的なものだった。なぜなら、ネアンデルタール人のDNAは非アフリカ人の現生人類すべてに数%共有されているものだったからだ。厳密さを追及するペーボは、当然その結果を何度もチェックにかけて検証したが、その事実は揺るがなかった。
この結果から導き出されるシナリオは、現生人類は約5万年前にアフリカを出て、中東でネアンデルタール人と交雑し、その遺伝子を世界中に広げた。その証拠がDNAに残されていたのだ。世紀の大発見だった。
ライバルたちとの競争に焦りながらも、最終的に成功を手にしたのは20年以上の長きにわたって手抜きをせずに精密さを追求したペーボだった。爽やかな読後感の最大の要因も、おそらく著者の「決してズルをしない」姿勢にあるのだろう。(BOOKウォッチ編集部 スズ)
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