発売から1年が過ぎても売れ続けている。佐藤愛子さん(93)の『九十歳。何がめでたい』。いまだに勢いが衰えない。むしろ加速しているようだ。
トーハンの2017年上半期ベストセラーでは堂々の1位。すでに93万部を突破、100万部に迫っているという。
面白いから売れている(当たり前ですね)。では、その面白さとは?
まず挙げられるのは、本音トーク。長寿はめでたいという常識を、タイトルでいきなり引っくり返した。内容は、90歳超えの著者本人が語る赤裸々な体験談と腹の内の思い。年を取るにつれ面倒なことが次々と起きる。生きることが厄介になる。そんな日々の苦労や失敗、イラ立ちを、歯に衣着せぬ物言いで思い切りぶちまけた。
もう一つはユーモア。とかく「老い」をめぐる話は暗くなる。それを佐藤さんは明るく、笑いを誘うように書いた。ページをめくるたびに読者は爆笑。これは天性のものだ。誰でもこんなふうに、不愉快なことでも後腐れなく、あっけらかんと書けるわけではない。
1950年『青い果実』でデビュー。63年には『ソクラテスの妻』で芥川賞候補になり、69年『戦いすんで日が暮れて』で直木賞受賞。79年『幸福の絵』で女流文学賞、2000年『血脈』で菊池寛賞受賞など文学歴は長く華々しい。しかも女性雑誌の常連筆者として、エッセイなどでも大活躍してきた佐藤さんだからこそ書けたといえる。
父・佐藤紅緑は昭和初期の「少年小説」の人気作家。異母兄は、テレビやラジオにもよく出ていた詩人のサトウハチロー。ともに「大衆」に近いところで生きていた。その血は、愛子さんにも脈々と流れている。
瀬戸内寂聴さんがベタ褒めし、著者自身も「徹子の部屋」に登場。書籍では珍しくテレビCMまで流れる。図書館ではどこも「貸出中」で大人気。出版元の小学館によれば、すでに1万通以上の「読者はがき」が届いているという。異常な数字だ。
日本女性の平均寿命は87歳に近づき、世界最高の超長寿国になっている。「90歳」はもはや他人事ではない。子や孫にとっても、家族の問題として切実だ。
だが、本書を最も真剣に読むべきなのは、医療や介護関係者かもしれない。佐藤さんは書いている。そろそろ老人性ウツになりかけていると感じていたが、本書のもとになった連載エッセイを雑誌「女性セブン」で書き始めたたら、元気になったと。何か目標を持ち、やりがいができると、高齢者といえども心身の状況が改善する。その実例として大いに参考になる。
さらにもっと切迫感を持つべきは、出版社の編集者だろう。本書は、「最後の小説」という『晩鐘』を書き上げ、「これからは何もせずに、のんびり老後」を決めていた著者のもとに「女性セブン」の編集者が訪れ、連載エッセイを懇願したことから生まれた。「編集者の熱意」が生んだミリオンセラーといえる。
版元の小学館では、「柳の下」ということで、たぶん『九十五歳。何がめでたい』の企画が進行していることだろう。「1万通」の読者はがきをゲットしているので、『「九十歳。何がめでたい」に届いた1万通の手紙』の準備が進んでいるかもしれない。他の出版社では編集者が、「第二の佐藤愛子を探せ」と上司からハッパをかけられているのではないか。
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