1985年8月に群馬・御巣鷹山で起きた日航機事故をストーリ―の軸に、事故現場の地元新聞社の記者の奮闘や経営をめぐる幹部らの暗闘を描く。筆者の横山秀夫氏は同事故当時、群馬県が発行エリアの上毛新聞社に勤務しており、その経験を題材にしたという。
タイトルの字面から内容がなかなか推し量れず、読み始めて途中までもなおミスマッチな印象が残る。だが「クライマーズ・ハイ」の意味が分かって読み終えると、うまいタイトルを付けたもんだな、と感心する気持ちが支配的になる。
作品は事故から8年後の2003年に刊行され、05年にNHKがテレビドラマ化、さらに08年には映画化された。小説のタイトルをそのまま使った映画の報道用説明によると、クライマーズ・ハイとは「登山時に興奮状態が極限まで達し、恐怖感が麻痺してしまう状態」。「北関東新聞社」で事故報道の「全権デスク」を任され、主役を務める遊軍記者、悠木和雄は登山家で、物語は、未曽有の大事故と派生した出来事にかかわることが、難コースに挑戦する山登りとオーバーラップしながら、丁寧な描写で進められていく。
北関東新聞社のエリアで起きた大事件といえば、女性8人を殺害した大久保清事件(1971年)やあさま山荘事件(1972年)などの連合赤軍事件があるが、大規模な事故は初体験。同社内では「大久保・連赤」世代が幹部となっており、日航機事故の采配で台頭する可能性がある悠木の存在を快く思わない上司らが、報道をめぐり妨害工作に及ぶ。そうした社内の闘争をよそに、現場で走り回る若手記者らは、取材規模で勝る全国紙に伍して、事故原因の真相に迫る。
いわば"現場からのレポート"であり、全くの創作では表現しきれないと思われるリアリティーが全体にみなぎる。現実のことがどこまで作品に反映されているかは不明だが、読者であるわれわれにとっては、あり得ないと思われるさまざまなことが起きる新聞社内部の描写はなかなか衝撃的だ。
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