『サピエンス全史』(河出書房新社)が大ヒットしているが、本書も同じ人類史モノ。本書で説明される肝は類書と同じように、これまで多くの人類が誕生し絶滅していった中で、なぜ私たちホモ・サピエンスだけが"唯一の人類"として生き延びたかだ。
ほかのどの動物よりもヒトは優れていたからだと多くの人は直感的に思うだろう。だが、著者は繰り返しこれを否定する。ホモ・サピエンスが生き残ったのは、むしろ弱かったからだ。弱かったがために、類人猿にはない特徴を進化させて生き延びた。
人類が進化できたのは直立二足歩行に移行して、森を捨て草原に出たおかげだと誰もが思っているだろう。たしかに直立二足歩行にはメリットもあるが、欠点もたくさんある。中でも最大の欠点は、四足歩行の動物と比べて直立二足歩行の人類は走るのが遅いのだ。これでは容易に捕食者に襲われてしまう。では、どうして直立二足歩行の人類は生き延びることができたのか。本書は、人類の進化の歴史を追いながら、さまざまな謎解きをしていくことで、ホモ・サピエンスが生き延びた理由を探っていく。
本書を読み進めて感じるのは、著者の巧みな"たとえ話"だ。他の動物と比べて人間は特別な存在のように感じられる理由を説明する冒頭部から著者の"説明力"が発揮される。現在生き延びている人類は我々ホモ・サピエンスだけだが、約700万年前に人類とチンパンジーの系統が分離して以来、北京原人やホモ・エレクトゥス、ネアンデルタール人、デニソワ人など、およそ25種の人類が誕生し、絶滅した。これを著者は徒競走にたとえる。確実に1着になるためには、2番目、3番目に速く走る競争相手に運動会を休んでもらえばいい。もっと確実に勝つためには25番目くらいの選手まで休んでもらえば圧勝できるはずだ。人と動物の間には本当は25人の選手がいたのだが、彼らが絶滅したので人間は特別に優れているように見えるのだと著者は例える。
脳は大きければいいというものではないことを説明するのは「有料アプリ」だ。使いこなせない有料アプリは、使用料が発生するだけ損をする。脳はエネルギーを食う。つまり、大きな脳を持てばお腹が空くのも早い。使わない有料アプリはダウンロードしないほうがいいように、脳も無駄に大きくしないほうがいいというわけだ。
この他にも、なぜ人類は犬歯を小さくしたのかは一夫一婦制で説明したり、アウストラロピテクス・アフリカヌスは人類か類人猿かを判定するのにカンニングの見破り方で説明したりと、わかりやすく、面白く読ませる工夫が詰めこまれている。
そうやって楽しく読み進めるうちに、700万年に及ぶ人類の歴史で、なぜホモ・サピエンスだけが生き残れたかの答えもわかってくる。
巷にあふれる人類史本の入門書として最適だろう。(BOOKウォッチ編集部 スズ)
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