読むべき本、見逃していない?

オウムの死刑囚と交流する著者の「私小説」

逆さに吊るされた男

 

 著者の田口ランディさんが、2000年ころ連続して直木賞候補になった新進気鋭の作家だったことを覚えている人もいるだろう。その後、いくつかの作品が盗作問題で絶版となり、華やかな文芸の舞台から名前は消えた。その後何をしていたかというと、オウム真理教による地下鉄サリン事件の実行犯で「殺人マシン」と命名された林泰男死刑囚(2008年確定)と15年近く面会や文通を重ね、拘置所の認めた「外部交流者」としてコミュニケーションを続けていたのだ。

 本書『逆さに吊るされた男』は、「私小説」の体裁を取っている。主人公は作家・羽鳥よう子。映画監督のMさんに誘われて東京拘置所にいるY(林泰男死刑囚がモデル)と面会する。しだいにYとの出会いが偶然でなく運命のように感じられ、やりとりが密になっていく。

 事件の風化が言われていた2011年、逃走していたオウム信者の平田信が出頭し、2013年から裁判が始まる。Yも証言に立つ。そんな二人の交流を軸にしながら、羽鳥はなぜオウムが事件を起こしたのか独自の解釈を始める。たとえば「麻原と、原爆と、ゴジラ」。

 作中、故・佐木隆三氏と羽鳥が、Yの人物評価をめぐって見方が分かれたという場面があり面白かった。「私は、佐木さんがあまりにも宗教に興味がないのが意外でした。それに、林郁夫や、井上嘉浩に対して、彼らの反省は本物だと思うとおっしゃっていました。人の見方はこんなに違うものかと驚きました」。このほかにも実在の人物が大勢登場する。

 著者と作中の作家・羽鳥との境界は定かではない。「オウム事件の真実を追っていた、なんて嘘っぱち」と羽鳥に語らせ、最後はオカルト的な解釈も登場する。読者によって評価が分かれる作品かもしれない。しかし、オウムを題材にしながら、こんなことを書くことも出来たのかと感心する。本書で田口さんが文壇に復帰するかもしれないと思った。BOOKウォッチ編集部

  • 書名 逆さに吊るされた男
  • 監修・編集・著者名田口ランディ 著
  • 出版社名河出書房新社
  • 出版年月日2017年11月30日
  • 定価本体1700円+税
  • 判型・ページ数四六判・247ページ
  • ISBN9784309024820

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