読むべき本、見逃していない?

フィンランド「大躍進」の秘密がわかった!

フィンランドは教師の育て方がすごい

 北欧はプラスイメージで語られることが多い。かつてはスウェーデンが福祉先進国として脚光を浴びた。昨今はフィンランドだ。子どもたちの学力が高く、幸福度も世界一だという。本書『フィンランドは教師の育て方がすごい』(亜紀書房)は「教育」の側面からフィンランド躍進の秘密に迫っている。10年ほど前の刊行だが、今日のフィンランドを予見していたかのような内容だ。

「教師の一日」が大違い

 著者の福田誠治さんは1950年生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。本書刊行時は都留文科大教授。のち学長を経て現在は理事長。

 『競争やめたら学力世界一 フィンランド教育の成功』(朝日選書)、『格差をなくせば子どもの学力は伸びる 驚きのフィンランド教育』(亜紀書房)、『競争しても学力行き止まり イギリス教育の失敗とフィンランドの成功』(朝日選書)、『こうすれば日本も学力世界一 フィンランドから本物の教育を考える』(朝日選書)、『フィンランドはもう「学力」の先を行っている 人生につながるコンピテンス・ベースの教育』(亜紀書房)など、フィンランドの教育についての著書が多数ある。

 本書は以下の構成。

 第1章 フィンランドの教師の一日
 第2章 フィンランドの教育の特徴とは
 第3章 カリキュラムが変わる、教育学が変わる
 第4章 探究的教師とは――フィンランドの教師養成制度
 第5章 OECDとEUの教育観の転換

 この中でだれもが驚くのは「教師の一日」だろう。少し古いが、2007年に国民文化総合研究所が行った調査結果が出ている。

 それによると、フィンランドの小中学校教師が学校に到着するのは7時56分で日本と変わらない。ところが授業終了は14時09分。学校を出るのは何と14時57分、帰宅は15時29分だというのだ。

 フィンランドの教師の義務は授業時間のみ。在学校時間は7時間01分にとどまり、日本の11時間26分と大差がある。

文書作成に追われない

 このデータを見ただけで、フィンランドの教師はずいぶん「余裕があるなあ」と驚く人が多いのではないか。あるいは、午後3時半には家に戻れるなんて・・・さぼりすぎではないか、と思う人がいるかもしれない。

 フィンランドの教師が早々と帰宅できる大きな理由の一つに、「教育方針の作成・事務報告・教材等の管理・その他の記録文書の作成」に時間をとられていないことが挙げられている。「ほとんどやっていない」が30.4%、「まったくやっていない」が38.6%もいる。つまり、フィンランドの教師の多くはいわゆる文書づくりをしていない。ノルマは授業だけ。しかもその授業の運営は個々の教師に任されており、他の管理者に向かって文書を作成するような作業に時間をとられていない。

 労働時間について、「働き続けるには仕事量が多すぎる」と考えているフィンランドの教師は2.9%しかいないのに対し、日本の教師は74.2%に達している。また、「生徒や保護者とのやり取りで疲れる」というフィンランドの教師は13.3%にとどまるが、日本は62.9%にもなっている。

 つまり、フィンランドの教師は授業に専念できる環境にある。

国際学力調査でトップクラス

 ではフィンランドの教師というのはどういう人たちなのか。ここもまた、日本と大きく異なる。フィンランドの教師は修士課程を修了することが必要条件になっている。1979年からそうなった。フィンランドの普通教育は、学問別に厳しくかつ高度に訓練された教師たちによって支えられているというのだ。

 教師になるには教師養成機関に通うことが必要で、そこでは教育実習が重視されている。ほぼ半年(約20週)が教育実習に充てられる。どの大学の出身者でも教員免許が取得できる日本とは事情が異なる。

 この結果、フィンランドでは、教師は弁護士や医者と同じような専門家とみなされ、職業的な地位が高く、尊敬されているという。教師評価もない。フィンランドでは、教師になるまでは厳しいが、なった後は自己評価の世界だ。絶え間ない自己研修が求められる。

 これまでの話で、おおよそフィンランドと日本の小中学校の教師の違いがクリアになったに違いない。

 とにかく優秀な教師の養成に力を注ぐ。「教師力」がアップしたことで、生徒たちも伸びる。フィンランドは近年、OECDの国際学力調査で、読解力、数学、科学の全分野においてトップクラスであり続けている。

「批判的な思考能力の教育」は1位

 多くの日本人にとって「森と湖の国」でしかなかったフィンランドはいつから目に見える形で変貌し始めたのか。1990年代のノキアの登場あたりからだろうか。携帯電話の世界にいきなりフィンランドが進出してきた。森と湖の国なので、電話線を敷くよりも携帯電話の方がコスト安になるという事情もあったようだ。

 そして2000年代に入ると、上述のように国際学力テストでの躍進が伝えられるようになる。国連が毎年発表している「幸福度ランキング」では2018から連続で1位なので、このところ注目度に拍車がかかった。世界最年少の34歳の女性首相も誕生した。閣僚18人のうち12人が女性だというから、日本からすると異世界だ。

 BOOKウォッチで紹介した『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか』 (ポプラ新書)には、そうしたフィンランドの現状が伝えられていた。

 一人当たりのGDPは約5万ドルで世界16位。日本は約4万ドルで24位。主要な産業は製紙、パルプ、木材など森林資源を生かしたものだが、最近は電子機器、情報通信も強い。ノキアは有名だが、アパレルのマリメッコ、ガラス製品のイッタラ、陶器のアラビアなども世界に知られ、北欧デザインの一翼を担う。

 世界経済フォーラムが141か国・地域を対象に「革新力」「労働市場」など12の指標で比較した国際競争力ランキングでフィンランドは11位。「批判的な思考能力の教育」は1位だった。

「教育重視」が生んだ躍進

 英語はどこでも通じ、いくつもの言語をしゃべる人が少なくない。起業も盛んで今やヨーロッパのシリコンバレーとも言われているそうだ。ヨーロッパ最大規模の「スタートアップの祭典」はフィンランドの学生たちが中心になって運営しているという。

 こうして振り返ると、1979年に教師資格を修士卒にして以来、ノキアの登場、学力調査トップクラス、幸福度ランキング1位という流れが「教育重視」の結果ではないかということに気づく。最近は、フードデリバリーサービスを世界で展開しているフィンランド企業が日本にも上陸したそうだ。配達員教育やサービスで、先行のウーバーイーツとの違いを見せるのか興味深い。

 ちなみにBOOKウォッチで紹介した加谷珪一さんの『貧乏国ニッポン――ますます転落する国でどう生きるか』(幻冬舎新書)によると、教育に対する公的支出のGDP比率は、日本は主要43国の中で40位。日本の大学における学生1人当たりの教育費は米国の3分の2にとどまる。一般会計における文教費の割合は、1960年代は12%近くあったが、現在は4%近くに低下しているとのことだ。日本が「教育に力を入れている」とは言えない状態にあることだけは間違いなさそうだ。その結果が、今日の日本の低迷につながっているということは多くの識者が指摘しており、相変わらず教育軽視が続く以上、10年、20年後はさらにひどい状態になっていることが予想される。

 



  • 書名 フィンランドは教師の育て方がすごい
  • 監修・編集・著者名福田誠治 著
  • 出版社名亜紀書房
  • 出版年月日2009年3月 1日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数四六判・280ページ
  • ISBN9784750509037

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