新型コロナに関して、大手メディアで連載された記事がいくつか単行本になり始めている。『心をたもつヒント――76人が語る「コロナ」』(共同通信社)もその一つ。同社が配信したインタビュー記事をもとにしたものだ。コロナ禍の困難を乗り切るためのヒントについて、各分野で活躍する76人から寄せられたメッセージを再録している。
養老孟司さん、三浦雄一郎さん、ロバート・キャンベルさん、尾木直樹さん、さだまさしさんら有名人も多数登場するが、本書の大きな特徴は、社会的に弱い立場にある人の支援活動をしている人や当事者の声が並んでいることだ。
例えば、ハンセン病の元患者で、国を相手とする訴訟にも原告としてかかわった中修一さんは次のように語っている。
「新型コロナウイルスに感染した人や、治療に当たる医療関係者への誹謗中傷は悲しいことです。自分は大丈夫だと思っているから差別するんだろうね。でも、感染症は誰もがなる可能性がある。かかっていないのは、ただ運がいいだけですよ」 「僕がなったハンセン病も、らい菌による感染症です」
コロナ差別を巡る報道を見て、ハンセン病への差別や偏見と全く変わらないと感じたという。自身も長年、そうした差別に苦しみ闘ってきただけに、こう付け加える。
「コロナに限らずあらゆる差別に打ち勝つには、理性と知性を総動員して、心と体の免疫力が強い人間にならないといけません」
このほか本書には、自殺対策NPO理事長、性的少数者の問題に取り組む市議、若者らの自立支援団体の代表、ひとり親世帯を支援する団体の理事長、全国不登校新聞社の編集長、10~20代の生きづらさを抱える女性を支援するNPO法人代表、酒・賭博・インターネットなどの依存症専門外来がある国立医療センターの院長、ネットカフェに寝泊まりする人々への支援を求めるネット署名を呼び掛けた人らが登場する。
顔ぶれが多彩なのは、この企画に全国の共同通信記者が参加しているからだろう。もともとは東京の社会部長による発案らしいが、社会部のみにとどまらず、文化部はもとより、生活報道部、運動部、支社局の若手も参加した。巻末に記者の名前が出ているが、女性記者と思われる名前も少なくない。
共同通信は、世間ではNHKや全国紙ほどにはなじみがない通信社だが、国内・海外に取材記者が多数配置されている。特に海外を重視しているので、かつては入社試験で英語に加えてもう一つの外国語を選択受験する必要があった。最近はどうなのだろうか。
全国の地方紙やブロック紙の多くは、海外ニュースや全国ニュースを共同通信の配信記事に依拠している。今回の連載記事も、北海道新聞、河北新報、東京新聞、新潟日報、中日新聞、神戸新聞、京都新聞、中国新聞、西日本新聞、沖縄タイムスなど全国39紙に一部または全部が掲載されたという。
全国紙の場合、最近は部数減が激しく、最大手紙も800万部を割ったと言われているが、地方紙の場合は地元での必須メディアなので、部数減のスピードは緩いとされている。したがって、多数の地方紙・ブロック紙に配信する共同通信は、隠れた最強メディアとなっており、このシリーズ連載を目にした読者数は膨大になる。
本書に登場する有名人のメッセージも紹介しておこう。
20年ほど前、テレビ番組の企画で1年3か月の間、1人部屋に閉じこもる生活を経験した俳優のなすびさんは当時、日記を書くことが誰かと話しているような気分になり、支えになったという。「人間は数か月間外に出なくても死にません」。
教育評論家の尾木直樹さんは、休校中に家庭で問題集やプリント学習をさせ点数評価する学校があったことに対して怒っている。子どもたちには、「新型コロナウイルスを研究課題にしちゃえ」と言いたいという。学びが深まるし、恐れるだけでなく前向きになれる、と提言している。学校教育のあり方の転換にも言及、「子ども参加」で共にコロナ時代を生き抜きたい、と補足している。
解剖学者の養老孟司さんは「何かを変えようとしなくても、こうした経験で、人はおのずから変わっていく。自然から収奪する形での成長がもはや行き詰まっている以上、変化は、おのずから成熟を目指す方向となる」と達観している。
近現代史の研究者は、戦前との類似が気になるようだ。保阪正康さんは、「コロナの今との共通点は政治指導者が戦略や戦術を持っていないということ・・・太平洋戦争の指導者のように、出たとこ勝負でやっている」と手厳しい。最近、『東條英機』を刊行し、各紙の書評欄で取り上げられている埼玉大学教授の一ノ瀬俊也さんは「今回の事態を経て、昭和の戦争に向かう流れを、格段にリアリティーをもって感じられるようになった気がします」と語っている。
BOOKウォッチは共同通信記者の本で、『自衛隊の闇組織――秘密情報部隊「別班」の正体』(講談社現代新書)、『村上春樹を読みつくす』(講談社現代新書)、『写真で見る日めくり日米開戦・終戦』(文春新書)、『皇室ファイル――菊のベールの向こう側』(共同通信社)などを紹介済みだ。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?