本書『米韓同盟消滅』(新潮新書)が出たのは、2018年10月だ。そんなことはあり得ないと専門家は見ていたが、それから2年。米国と北朝鮮の核をめぐる協議は難航し、韓国の文政権は北寄りの姿勢を崩さない。本書は反米反日の韓国の「中二病」的世論を分析した本だ。
著者の鈴置高史さんは日本経済新聞社のソウル特派員、香港特派員を歴任。2002年にはボーン・上田記念国際記者賞を受賞。18年に退社。韓国ウォッチャーとして著作活動を続けている。著書に『朝鮮半島201Z年』など多数。
この本の目的は「米韓同盟が消滅しかかっていると日本人に知らせることにある」と書き出している。米国の後ろ盾を失えば、韓国は実質的には中国の勢力圏に入る可能性が高いと鈴置さんは見ている。
朝鮮半島は誰の核の傘に入るのか? 4つのシナリオを検討している。
Ⅰ 北朝鮮は中国の傘を確保。韓国は米韓同盟を維持。 Ⅱ 北朝鮮は米国と同盟・準同盟関係に入る。韓国は米韓同盟を維持。 Ⅲ 半島全体が中立化し、国連や周辺大国がそれを保証。 Ⅳ 北朝鮮は自前の核を持つ。韓国は北朝鮮の核の傘に入る。
鈴置さんはこれらを検討し、「北朝鮮はシナリオⅢを呑むフリをしながら、自前の核を持つシナリオⅣを実現しようと狙うはずだ。『中立化』はともかく『非核化』を受け入れるつもりはないからだ」と分析している。
韓国は2020年以降、ミサイル潜水艦を配備する計画があり、「民族の核」を北朝鮮と共有する夢を持っている、と警告している。
小説『ムクゲノ花ガ咲キマシタ』(1993年)は南北が合同軍を作り、北の開発した核兵器を日本に撃ち込み屈服させるというストーリーで、100万部も売れ映画化もされて賞もうけた。また2017年の映画「鋼鉄の雨」は、主人公は北朝鮮の工作員と韓国政府高官の2人。クーデターで負傷した北朝鮮の最高指導者がソウルで密かに治療を受けた後、救急車で北に送り届けられ、その見返りに韓国は北の核兵器を半分譲ってもらうという荒唐無稽なもの。しかし、「この映画こそは、南北が民族の対立を克服して核を共有し、傲慢な米国を見返す、といった韓国人の夢を素直に語った」ものだという。
本書の構成は以下の通り。
はじめに 日本が大陸に向き合う日 第1章 離婚する米韓 米韓同盟を壊した米朝首脳会談 「根腐れ」は20世紀末から始まっていた 北朝鮮は誰の核の傘に頼るのか 「民族の核」に心躍らせる韓国人 第2章 「外交自爆」は朴槿恵政権から始まった 「米中を操る」という妄想 どうせ属国だったのだ...... 明清交代のデジャヴ 「韓国の裏切り」に警告し続けた米国 第3章 中二病にかかった韓国人 疾風怒濤の韓国 「反日」ではない、「卑日」なのだ 墓穴を掘っても「告げ口」は止まらない あっさりと法治を否定 第4章 「妄想外交」は止まらない 儒教社会に先祖返り 韓国人をやめ始めた韓国人 専門家だから「本当のこと」は言わない あとがき 「中二病」は治るのか?
韓国は「中二病」という言葉を日本から輸入し同じ意味で使っているという。自分たちには隠された力があり、世界に冠たる国であるという思いを国民が持っているというのだ。アジア通貨危機からの回復、2002年サッカーW杯での4強入りなどが自信を付けさせた。さらに、朴槿恵政権を退陣させた「ろうそく革命」は世界4大革命の一つであるという新聞論説に鈴置さんは驚く。「朴槿恵弾劾騒動の中で国全体に中二病の毒が回り、自分たちが自己賛美という病に罹っているとは誰も恐ろしくて指摘できなくなっていたのだ。思春期の青年を下手に刺激すると、逆切れされるのがオチだからである」と書いている。
そして韓国はもう「反日」ではなく「卑日」だとしている。彼らを突き動かすのは「日本を卑しめたい」との衝動だという。元従軍慰安婦問題をめぐるさまざまな動きもそうした国民の情動が背景にあると知れば、なるほどと思う。
今年もノーベル賞の発表シーズンになった。自然科学系の受賞者がいない韓国では、日本から受賞者が出るたびに、「なぜ韓国からノーベル賞受賞者が出ないのか」と大騒ぎになるという。日本へのコンプレックスがねじれた形で発露するのだろう。「中二病」というキーワードを使えば、韓国がわかりやすく見えてくると思った。
今年話題になった韓国ドラマ「愛の不時着」も、北の高官の息子である兵士と南の財閥令嬢のロマンスがテーマだった。案外、韓国の人々の隠れた理想を映像化したものかもしれない。
またかつては日本が韓国の最大の貿易相手国だったが、今は中国だ。韓国は以前は中国を見下していたが、巨大な経済大国になった中国に対しては、「どうせ属国だったから仕方がない」というあきらめの声が聞かれるようになったそうだ。
米韓同盟の消滅と韓国の「中国の属国」への回帰は現実になろうとしている。
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