本書『地図で楽しむ本当にすごい千葉』(宝島社)は、2017年に出た『地図で楽しむすごい千葉』(洋泉社)を増補・改題したものだ。千葉県民の評者としては「何が本当にすごい」のかが気になり、手にした。
トップ項目が「地層に約77万年前の痕跡 地質年代チバニアン誕生!」だ。前著ではまだ「採用される見通し」の段階だった。2020年1月17日、国際地質科学連合(IUGS)で承認され、正式決定したのを受けて、大きく紹介している。
「チバニアン」とは「千葉時代」という意味をもつラテン語だ。約46億年におよぶ地球の歴史のなかで、約77万年前~12万年前の地質年代が「チバニアン」と命名された。地質年代に日本の名前がつけられるのは史上初の快挙。
地質年代は先カンブリア時代に始まり、古生代、中生代、新生代の4つの時代に大別され、さらに「紀」「世」と細かく分類されている。新生代の第四紀の更新世はジェラシアン、カラブリアン、中期、後期と分けられており、そのうち中期は氷河期と温暖な間氷期が繰り返され、マンモスなどの大型ほ乳類が暮らす一方で、現生人類のホモ・サピエンスが現れた時代とされ、これが「チバニアン」と命名された。
決め手は地磁気逆転の証拠が市原市の養老川の河岸に露出している場所で見つかったことだ。地磁気が逆転する現象はこれまでに11回起きているが、約77万年前に起こったことが、この地層から分かった。海底に堆積した地層が、地殻変動で隆起し、房総半島が地上に出現。さらに養老川の侵食作用で崖となり、目に見えるようになったのだ。
本書には現場付近の地図と空撮写真が載っている。評者は偶然にも現場に土地鑑があった。たまに行くゴルフ場がすぐ近くだった。養老川が蛇行し、道路は何度も橋を渡る。何もない山中と思っていたら、「チバニアン」の現場と知り、驚いた。小湊鉄道の月崎駅からも歩いて行ける距離にあるので、地質に関心のある人は行ってみたらどうだろう。
本書は地図や写真で千葉の歴史、地理を紹介する本だが、よくあるお国自慢の本とは少し毛色が違う。冒頭の「チバニアン」もそうだが、千葉県の地質はプレート運動の影響を受けている。
海岸も九十九里浜のような砂浜の海岸もあれば、銚子半島南西側にある屏風ヶ浦のような海食崖、さらに鴨川付近のリアス式海岸と地形もバラエティに富む。こうした地形や自然から、「なぜ千葉県には貝塚や古墳がたくさんあるのか?」「家康恩顧の猛将・本多忠勝はなぜ大多喜城に配された?」「すべては江戸を守るため 利根川東遷で千葉は犠牲に?」といった歴史の疑問まで、面白く解説している。
構成は以下の通り。
第1章 地形で見る千葉県 「今も変わり続ける房総半島」 第2章 地図でたどる千葉県の歴史 「千葉は朝廷や幕府に翻弄された?」 第3章 地図で見る千葉県の神社仏閣 「房総に根づく神様、仏様」 第4章 千葉県の交通地図 「陸海空、房総の交通は万全か」 第5章 地図で読み解く千葉県の産業 「千葉はどんな産業にも好立地!?」
統計によるベスト、ワーストも公平に紹介していることに好感がもてる。工業、農業ともに全国屈指だが、全国一の労働時間にはたびたび残業をしなければならない従事者が多いということだろうか。
一方、相対的貧困率は長野県に次いで、全国2番目の低さ。格差の低い県と言えるだろう。
訪日外国人数も東京に次いで2位と観光にも強い。と言ってもこれは東京ディズニーランドという巨大集客施設があるおかげだ。コロナ禍で閉園が続いたので、どうなるのか?
神奈川県にはかなわないけど、埼玉県には勝っている、と思っているのが評者のような平均的千葉県民の認識だろう(映画「翔んで埼玉」には負けたが)。自分たちの住んでいる場所がどのようなところなのか? 本書は冷静に見つめ直す契機になるかもしれない。
洋泉社の「地図で楽しむシリーズ」は「北海道」「神奈川」「愛知」「宮城」「新潟」「広島」「埼玉」「静岡」なども発行され、それぞれ当該地域ではベストセラーになっていた。今年(2020年)2月、洋泉社が親会社の宝島社に吸収合併されたことで、どうなるのか? 本書のような形で増補されることを地図マニアとして望みたい。
BOOKウォッチでは地図関連で、『読んで旅する秘密の地図帳』(青春出版社)、『地図と写真でわかる 江戸・東京』(西東社)、『廃線探訪入門』(天夢人 発行、山と溪谷社 発売)など、千葉の遺跡では『海上他界のコスモロジー 大寺山洞穴の舟葬墓』(新泉社)を紹介済みだ。
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