本書『読んで旅する秘密の地図帳』(青春出版社)は、タイトルに「地図帳」とあるが、地図は1枚も載っていない。しかし、「地図帳」をめぐるさまざまな疑問に答えた本だ。世界と日本の地名、地形、気象、名所・旧跡などについての「おもしろ雑学」が詰まっている。コロナ禍の下、旅行が出来ないうっぷんを晴らすには手ごろな本だろう。
構成は「世界地図」「アジア・中東・アフリカ・オセアニア」「ヨーロッパ・北米・中南米」「日本地図」「北海道・東北」「関東」「中部・北陸・近畿」「中国・四国・九州・沖縄」の8部からなる。世界と日本がほぼ半々の分量だ。
「八ヶ岳周辺にはなぜ『海』のつく地名が多い?」など、クイズ形式で1ページに1、2問のやりとりが載っているから、興味のあるところから読めばいい。
地理は中学、高校時代に勉強してから遠ざかっている人が多いだろう。「最近変わった地名、変わりつつある地名」というコラムが最新の事情を教えてくれる。
たとえば、「×マケドニア→〇北マケドニア」の説明は、こうだ。
「2019年2月に国名を変更。1991年の独立以来、マケドニアという国名を使っていたが、ギリシャが古代の英雄アレクサンドロス大王の率いた国の名でもあるその名に反対、EUへの加盟を阻止してきた。そこで『北マケドニア』に国名を変更するという"妥協"がはかられた」
また、トルコのトプカピ宮殿はトプカプ宮殿に、イタリアのベスビオ山はベズビオ山に表記が変わったそうだ。いずれも現地の音に近づけるためだ。ミャンマーの首都はヤンゴンではなく、ネピドーだ。2006年に遷都された。
この手の本はいかに「へえー、そうなのか」と読者に驚きを与えることが出来るかが勝負だ。世界編で評者がそう思ったのは、「アマゾン川はかつては、太平洋に注いでいた?」という項目だ。今から約2000万年前、中新世の時代、アマゾン川は南米大陸の西側、太平洋に注いでいたという。
当時、アマゾン川の源流は、マナウスを中心とするアマゾン低地で、そこに巨大湖があったそうだ。当時はまだアンデス山脈がなかった。その後、アンデス山脈が隆起し、アマゾン低地の水は行く手を阻まれて、東へ流れるようになった。やがて、アンデス山脈から流れる水が新たな川を開き、古くからあるアマゾン川と結びつき、今の巨大なアマゾン川になった。
ちなみに本書には書かれていないが、北海道の石狩川はかつて太平洋に流れ出ていた。火山の噴火により南下を阻まれ、北の日本海側へ流れるようになった。アマゾン川とは規模は違うが同じ原理だ。こういう知識は何の役にも立たないが、想像するだけで気宇壮大な気分になるからいい。
日本の各地編になると、かなりトリビアルなネタが多い。「東京の西側にあるのになぜ 東久留米? 東村山? 東大和?」。久留米はすでに福岡県に同名の市があり使えず、当時すでにあった西武池袋線の駅名を使うことにした。東村山は、かつて村山郷と呼ばれる場所にあり、その中でも東部にあることからつけられた。東大和は神奈川県にすでに大和市があったため、東大和とつけられた。
大阪市中央区には「上町A」「上町B」「上町C」とアルファベットの付いた地名があるそうだ。平成元年に東区と南区が合併して中央区になった際、東区には上町1丁目が、南区には上町があったことから混乱が生じた。旧南区の上町に上町2丁目とするよう要請したが、「昔から上町を名乗っていたのは自分たち」と住民は反発。代案として上町のあとにA、B、Cと表記することにしたという。
日本では地名にまつわる話がもっとも面白い。北海道当別町には「スウェーデンヒルズ」という地名がある。実際に北欧建築タイプの家が並ぶ住宅地になっており、スウェーデン国王が来訪したとか、青森県中泊町には「馬鹿川」という川があるとか、北海道新ひだか町には「1839峰」という山があるとか。その山の名はかつての標高に基づくもの。その後の測量で標高は1842メートルに訂正されているが、名前はそのままだそうだ。
繰り返しになるが、本書を読んでもあまり役には立たない。しかし、話のネタにはなるだろう。地名にはまだまだ知らないことがいっぱいある。
本書は『モノの見方が変わる大人の地理力』『学校ではぜったい教えてくれない世界地理のツボ』『世界遺産 迷宮の地図帳』『世界で一番すごい地図帳』『世界で一番ふしぎな地図帳』(いずれも青春出版社)をもとに、新たな情報を加えて再編集したものだ。
BOOKウォッチでは、地理関連で『「日本が世界一」のランキング事典』 (宝島社新書) 、『最新版 東大のクールな地理』(青春新書プレイブックス)、『47都道府県の歴史と地理がわかる事典』(幻冬舎新書)などを紹介済みだ。
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