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自動車生産台数「ダントツ世界一位」の国は?

「日本が世界一」のランキング事典

 「こんなに世界一が多い国だって知ってます?」というキャッチコピーが付いている。『「日本が世界一」のランキング事典』 (宝島社新書)は、あらゆるジャンルに目配りしながら「日本が世界一」になっている項目をまとめたものだ。世界最大や世界最古などについても補足されている。もちろん「世界一」には、「ベスト」と「ワースト」があるので、本書は「ザンネンな世界一」についてもリストアップしている。巻末に参考文献としては、大月書店の『日本は世界で何番目?』シリーズなどが挙げられている。

自家薬籠中の編集作業

 著者の伊藤賀一さんは1972年生まれ。法政大学文学部史学科卒業後、東進ハイスクールを経て、現在、リクルート運営のオンライン予備校「スタディサプリ」で高校日本史・倫理・政治経済・現代社会、中学地理・歴史・公民の7科目を担当する「日本一生徒数の多い社会科講師」だという。

 本業の延長で、多数の著書がある。著書・監修書に『47都道府県の歴史と地理がわかる事典』(幻冬舎新書)、『世界一おもしろい 日本史の授業』、『「カゲロウデイズ」で中学地理が面白いほどわかる本』『すごい哲学』『笑う日本史』(すべて株式会社KADOKAWA)、 『ニュースの"なぜ?"は日本史に学べ』(SB新書)など。

 本書は、「第1章 日本の誇るべき世界一」、「第2章 日本の意外な世界一」、「第3章 日本史から読み解く世界一」、「第4章 日本のザンネン(?)な世界一」、「第5章 日本が惜しくも世界一ではないランキング」、「第6章 日本が世界一ではない!? その他の世界ランキング」に分かれている。それぞれの章でおおむね数十の事柄が紹介されている。伊藤さんは社会科の諸科目に精通しているので、本書は自家薬籠中の編集作業といえる。

 「誇るべき世界一」では、「東京は世界一安全な都市」、「世界で最も清潔な空港は羽田空港」、「老舗の数は日本が世界一」、「新聞の発行部数は日本が世界一」などが並んでいる。「意外な世界一」では「世界一長い民事裁判 家永教科書訴訟」、「日本は世界一のチーズ輸入国」、「日本は駐留アメリカ軍が一番多い国」など。「日本史から読み解く」では、「現存する世界最古の博物館 正倉院」など。

 「ザンネン」では「中学教員の仕事時間は先進国最長」、「対GNP比の政府債務残高1位の借金大国」など。「惜しくも世界一ではない」ものとして、薬剤師数や歯科医師数、外貨準備高などが世界2位だと紹介されている。

外国人が「働きたくない国」

 「第5章」では他国が一位の項目が掲載されている。例えば、自動車の生産台数。今や中国が世界一。本書によると、1980年に日本がアメリカを抜いて世界一になったが、それはもう昔の話。現在、ダントツは中国。21世紀に入ってから大幅に増えて、すでに2009年に世界一に。18年度には世界の自動車生産台数の4分の1を占めている。台数でいうと、2780万台。アメリカは1131万台、日本は972万台。中国メーカーの自動車なんて日本では見たことがないが、基本的には国内需要向け。最近は輸出にも力を入れているそうだ。

 個別の項目を見ていると、意外なことに気づかされる。例えば、「安全な都市でありながらリスク面もトップの東京」というのがある。どうして? と首をひねったら、自然災害のリスクも加味されているらしい。この項目はイギリスの保険組合「ロイズ」が関わっている調査結果を引用している。したがって地震や台風被害が勘案されているようだ。今日のコロナ禍は今後どのように算定されることになるのだろうか。武漢やニューヨークがダントツになるのかもしれない。

 さらに謎だったのは、「世界の駐在員が働きたくない国」で、日本が調査対象33か国の中で32位のブービーになっていること。「政治的安定」などは評価されているが、「収入」「ワークライフバランス」「教育」が最下位。外国人から見た日本は「働き甲斐がなく定住するのは難しい国」となっている、と本書は解説している。

比率か絶対数か、元のデータは正しいのか

 こうしたデータ分析では一つ、注意すべきことがある。「世界一」というのが、絶対数をもとにしているのか、それとも人口比率なのか。例えば「世界一赤ちゃんが安全に生まれる日本」という項目がある。日本の新生児の死亡割合は1111人に1人。最も死亡率の高いパキスタンは22人に1人。これは比率だ。「病院数」の世界1位も日本。全国で8412か所というのは絶対数だ。

 本書は、「絶対数」と「比率」について、日本の都道府県を例にとって、補足している。人口10万人あたりの病院数や看護師数、1人当たりの医療費負担額が全国で最も多いのは、実は高知県なのだという。

 これは、今日のコロナ禍を考えるときにも参考になる。世界の感染者数や死者数は絶対数で順位付けされているが、率を調べると、違った見え方になる。5月1日現在の日本の感染者は1万4545人、死者は458人。中国の公式発表は、感染者が8万2874人、死者は4633人。日本は中国よりずいぶん少ない感じがするが、人口はざっと中国の10分の1弱。それを勘案すると、人口で割った死者の比率は中国とあまり変わらず、感染率はかなり高くなる。あくまで中国の発表を正確としたうえでの比較だが、統計比較には常にこのような陥穽があるので注意が必要だ。

 また、一つの国の中でも地域差を見る必要がある。評論家の辺真一氏によると、ソウルの人口は約1000万人だが、5月9日現在の死者は2人に留まり、東京とは大差がある。感染者と死者の多くは大量の集団感染を引き起こした大邱市に集中しているとネットで説明していた。

 イギリスBBCは4月24日、「各国の感染・死者数、比較が難しいのはなぜ? 新型ウイルス」という記事を報じている。国によって感染者や死者の判断基準、ベースとなる検査数などが異なり、単純な比較が難しいので、数字の「ファクトチェック」が必要だと指摘していた。日本のデータも精査が必要なことは、BOOKウォッチでも『わかる公衆衛生学・たのしい公衆衛生学』(弘文堂)を紹介する中で指摘済みだ。政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の尾身茂副座長自身も5月11日の参院予算委員会で、国内の実際の感染者数が、公表数字の「10倍か、15倍か、20倍かというのは誰にも分からない」と述べている。

 BOOKウォッチでは関連で、国連の「幸福度ランキング」で世界一の『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか』 (ポプラ新書)のほか、自動車関係で『トヨトミの野望 小説・巨大自動車企業』(講談社)、平成は日本が没落した時代だと見る『平成はなぜ失敗したのか』(幻冬舎)、数学センスの必要性を説いた『数学的思考ができる人に世界はこう見えている』(祥伝社)なども紹介している。

  • 書名 「日本が世界一」のランキング事典
  • 監修・編集・著者名伊藤賀一 著
  • 出版社名宝島社
  • 出版年月日2020年4月10日
  • 定価本体900円+税
  • 判型・ページ数新書判・352ページ
  • ISBN9784299004291
 

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