コロナ関連本の出版が続いている。そんな中で本書『世界を変えた微生物と感染症』(祥伝社)の特徴は、「中学理科のレベルでやさしく解説」というところにある。大人はもちろん中学生でも読んで理解することができる。コロナ禍に触発され、将来は医学や生物学の研究に進みたいと思っている小中学生には格好の読み物といえるだろう。
著者の左巻健男さんは理科教育者。京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学教職課程センター教授などを経て『RikaTan(理科の探検)』誌編集長。著書に『暮らしのなかのニセ科学』『学校に入り込むニセ科学』(平凡社新書)、『面白くて眠れなくなる人類進化』(PHP研究所)などがある。
このほか、多数の子ども向けの理科参考書も出版している。本書も、基本的にはそうしたジャンルの一冊だ。感染症とは何か、人類はどう対処してきたのかについて中学で理科が苦手だった読者にもわかるように、ということを心掛けて書いている。基本に立ち返って土台を固めておくことが一番有効だと考えているからだ。
全体は以下の構成になっている。
第一章 感染症をもたらす微生物の不思議なしくみ 第二章 これだけあった! 人類が闘ってきた感染症の歴史 第三章 私たちの暮らしに役立つ微生物 第四章 世界は微生物にあふれている
第一章は、「そもそも感染症って何だろう?」から始まる。「ワクチンでたくさんの病気が克服できた?」「抗生物質のおかげで人類は感染症に勝てるようになった?」「感染症と闘う免疫の仕組みとは?」と続いていく。
第二章では、新型コロナウイルス、SARS・MERS、マラリア、インフルエンザ、コレラ、結核などが登場する。
第三章は発酵と腐敗の違い、酒類と酵母、腸内フローラなど私たちの日々の健康に身近な微生物の働きぶりが取り上げられている。第四章では細菌、ウイルスなどについて改めて解説している。
微生物、ウイルスの歴史でいえば、最小限、次のことを覚えておくといいだろう。
・微生物の存在を初めて見つけたのは、17世紀のオランダの科学者、レーウェンフック。顕微鏡を作り上げ、細菌やカビなど、顕微鏡でしか見ることができない無数の生物が存在することを発表した。 ・19世紀末になって、普通の顕微鏡では見ることができない「ろ過性病原体(ウイルス)」の存在がわかった(のちに電子顕微鏡で突き止められた)。
人類の歴史は感染症との闘いの歴史だったといわれる。実際に、人類と感染症の闘いが本格化したのは約1万年前から。これは農耕で人々が定住し集落の人口が増えたこと、家畜から感染症が人類に広がるようになったことによる。
過去のパンデミックのランキングも掲載されている。
1位 ペスト 死者2億人 1347~51年 2位 天然痘 死者5600万人 1520年 3位 スペイン風邪 死者4000~5000万人 1918~19年 4位 ペスト 死者3000~5000万人 541~42年 東ローマ帝国 5位 エイズ 死者2000万人以上 1981~2000年
ペストはこれ以外にも何度も上位に顔を見せる。人類を脅かしてきた証拠だ。今回の新型コロナウイルスは6月23日現在で死者約47万人、14位だという。
感染症と闘った科学者の名前では、天然痘の種痘を開発し、撲滅への道筋をつけたエドワード・ジェンナー(1749~1823)、ペニシリン開発に貢献したアレクサンダー・フレミング(1881~1955)の名前を忘れてはならないだろう。ペニシリンは細菌による感染症の治療に使う抗菌薬(抗生物質)だ。二人の名前は本書でも特記されている。
BOOKウォッチでは多数の関連本を紹介済みだ。概説書では『人類は「パンデミック」をどう生き延びたか』(青春文庫)、『世界史を変えた13の病』(原書房)、『感染症の世界史』(角川ソフィア文庫)、『イラスト図解 感染症と世界史 人類はパンデミックとどう戦ってきたか』(宝島社)、『パンデミック症候群――国境を越える処方箋』 (エネルギーフォーラム新書)など。医療関係者の著書では『猛威をふるう「ウイルス・感染症」にどう立ち向かうのか』(ミネルヴァ書房)、『知っておきたい感染症―― 21世紀型パンデミックに備える』 (ちくま新書)、『病が語る日本史』 (講談社学術文庫)、『感染症とたたかった科学者たち』(岩崎書店)、『流行性感冒――「スペイン風邪」大流行の記録 』(東洋文庫)、『ウイルスは悪者か』(亜紀書房)など。また、『牛疫』(みすず書房)、『病魔という悪の物語――チフスのメアリー』(ちくまプリマー新書)のほか、コロナ禍との直接のかかわりでは『PCR検査を巡る攻防――見えざるウイルスの、見えざる戦い』(リーダーズノート)、『新型コロナウイルスの真実』 (ベスト新書)、『新型コロナはいつ終わるのか?』(宝島社)、『新興衰退国ニッポン』 (現代プレミアブック)なども紹介している。
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