読むべき本、見逃していない?

ラジオのお悩み相談から生まれた「悔しみ」の記録

悔しみノート

 「完全なる負け犬の遠吠えが突き刺さる! 観るもの聴くものすべてに嫉妬して、怒り悶える若者が綴る『悔しみ』の記録」――。

 本書『悔しみノート』(祥伝社)は、著者の梨うまいさんがラジオ番組「ジェーン・スー 生活は踊る」(TBSラジオ)のお悩み相談コーナーに送ったメールがきっかけで生まれた一冊。梨うまいさんとジェーン・スーさんとの間で交わされた大まかなやりとりは以下のとおり。

 「私は何をどうしたらいいか分からず悩んでいます。いい作品に出会っては嫉妬に悶え、でも物作りに挫折して逃げ出した自分にはもう何もできないと落ち込む日々です......」(ラジオネーム・梨うまい/24歳アルバイト)
 「今日からエンターテインメントで悔しかったやつ全部ノートに書いて! とりあえず『悔しみノート』の作成を命じる!!」(ジェーン・スー)

一年間悔しみを綴る

 著者の梨うまいさんは、1994年生まれ。日本大学芸術学部卒。そもそもラジオ番組にメールを送った動機は、「恥ずかしくて情けなくて誰にも言えないけれど抱えきれない思いを、誰かに受け止めてほしかった」から。ただ、反応が欲しかったわけではなく「誰かが目にしてくれたかも」と思えるだけでよかったという。

 はじめにメールの内容を詳しく書いている。梨うまいさんは大学卒業後、フリーで活動(演劇関係)していた。しかし、自身の出来に満足できず自己嫌悪に陥り、心身ともに調子を崩してしまう。実家へ半強制的に戻り、現在は順調に健康を取り戻し、本屋でアルバイトをしている。

 同時に、いい映画を観たりいい本を読んだりしては「こういうことがしたかったのに」と悶え、「でも物作り地獄に耐えられず逃げ出した自分にはもう何もできない」と落ち込む日々を過ごしている。こんなに自分のことが嫌いなのに、就活して自己PRが出来るとも思えない......。

 このメールを読んだジェーン・スーさんは「そりゃ22歳で大学出てそのあとフリーでやっていきなりうまくいくわけないよ!」として、冒頭の「悔しみノート」の作成を命じた。

 梨うまいさん自身、一体どうしてこのメールが採用されてしまったのか分からないという。恥ずかしくてどうにかなりそうだったが「恥ずかしいついでにやっちまえ」と、アドバイス通りに一年間悔しみを綴った。本書はそれを書籍化したものである。

 書き始めた頃は「心の治りきらないところを掘り出して、あふれ出した負の記憶と感情の濁流に飲まれる恐ろしさ」に「おえぇ」となった。しかし、書き終えたいま「死ななくて良かった」と思っている。

 「おえぇ、からそこまでどうやってたどり着いたんだか、流れ着いたんだか、このノートはその記録としての価値くらいはあるかもしれない」

「今は主人公らしくなくとも」

 本書は悔しみを書き殴ったノートであるとともに、各種エンターテインメント作品のレビューになっている。著者は芸術への造詣が深く、多方面に詳しい。洋画、邦画、アニメ映画、ドラマ、監督、俳優、音楽、書籍など幅広く取り上げ、熱く持論を展開している。妬み、怒り、憧れが激しく入り混じる「七転八倒の全力レビュー」73編を収録。

 個々のレビューは本書をお読みいただくとして、ここでは悔しみをはじめとする著者の内面の動きにフォーカスして紹介しよう。

 「初めてインプロ(即興演劇)した時のこと、すげぇ覚えてる。生まれてきた中で一番自由でスリリングで面白かった。......自分の激しさや敏感さはこのために生まれ持ってきたのかと。嬉しかったぁ、嬉しかったなぁ」

 日芸に入れば「そんな奴ばっかなんだろう」と思っていたが、そうでもなかった。みんな大学生らしく飲めない酒を飲んだり、自主休講したり、「くそつまんねー」行事に集団で属して打ち込んだりしていた。「そんな暇と金があったら、芝居を作れよと稽古しろよとムカついて仕方なかった」と振り返る。

 演劇への想いが人一倍強いゆえに、学生時代から尖った様子だったことが伺える。しかし現時点では、それほどの情熱の持ち主であるにもかかわらず、演劇でやっていくという願いは叶っていない。

 「悔しいと思うのがしんどくて、映画もドラマも、CMすらも目にしたくなかったけれど、それにも慣れてきた。......もっとああすれば、こうすれば......と上から目線であれこれ考えるのも、もう仕方ないことなんだ、きっと」

 叶わなかった夢と現実との折り合いをつけることは、なかなか時間がかかるだろう。その過程で幸運にも、本を出版するという転機が舞い込んだ。

 「何になるかは分からんけど、このノートが出来たんだからね、何かしらにはなるでしょう。散々やる力がないことを嘆いたし、やれる時に尻込みするとクッソ後悔することも知ってるから元気なうちにやっちまおう。今は主人公らしくなくとも、とりあえず人生は続いている」

 おそらくほとんどの人が、誰にも見せないことを前提にやり場のない感情を書き殴った経験はあるだろう。本書の大半は印字されているが、現物のノートを部分的に載せている。その手書きの部分を読むと、まさに書き殴ったという感じだ。ただ、その粗さに引くことはなく、むしろ赤裸々に綴られた感情の数々に共感した。妬み、怒りといった感情は、とてつもないエネルギーを発揮することがある。著者はこの「悔しみノート」を糧に前進していくのだろう。そうした感情から目をそらすことなく、あえてじっくり向き合う習慣を持つのもいいかもしれない。



 


  • 書名 悔しみノート
  • 監修・編集・著者名梨うまい 著
  • 出版社名株式会社祥伝社
  • 出版年月日2020年9月10日
  • 定価本体1300円+税
  • 判型・ページ数四六判・184ページ
  • ISBN9784396635916

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