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ジェーン・スーが警告「低スペック女子サバイバル術」

馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください。

 「心に刺さる」を越えて、ここまでグサグサ来るのも稀である。藤森かよこさんの本書『馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください。』(ベストセラーズ)は、タイトルからして衝撃的だ。タイトルの「あなた」に自分を当てはめて読むと相当ダメージを受ける、とはじめに断っておこう。

 ジェーン・スーさんは、本書に「警告コメント」を寄せている。

 「これは警告文です。本作はハイコンテクストで、読み手には相当のリテラシーが求められます。自信のない方は、ここで回れ右を。『馬鹿』は197回、『ブス』は154回、『貧乏』は129回出てきます。打たれ弱い人も回れ右。書かれているのは絶対の真実ではなく、著者の信条です。区別がつかない人も回れ右。世界がどう見えたら頑張れるかを、藤森さんがとことん考えた末の、愛にあふれたサバイバル術。自己憐憫に唾棄したい人向け」

低スペック女子に愛をこめて

 著者の藤森かよこさんとは、一体どんな人物なのか。1953年愛知県生まれ。元桃山学院大学教授、福山市立大学名誉教授。元祖リバータリアン(超個人主義的自由主義)である米国の作家、思想家アイン・ランド研究の第一人者。訳書に『水源』『利己主義という気概』がある。

 本書は「低スペック女子が現代を生き抜くサバイバル術」が詰まった「人生のトリセツ」となっている。女性の一生を「Part1 苦闘青春期(三七歳まで)」「Part2 過労消耗中年期(六五歳まで)」「Part3 匍匐前進老年期(死ぬまで)」の3つに分けて、それぞれの時期に大切な心構えを説いている。

 また、本書は「おすすめ本ガイド」でもある。著者が実際に読んで「面白いし有益だと思った」約120の書籍をテーマ別に紹介していて、大いに参考になる。インパクトのあるタイトルに反して中身が物足りなく感じることはよくあるが、本書は著者の見識の高さと膨大な読書量によって、説得力と厚みのある中身となっている。

 「馬鹿ブス貧乏」「愛をこめて」という愛があるのかないのか微妙なタイトルだが、熱量の高い文章に低スペック女子への愛がにじみ出ている。一般的な自己啓発書はなんとなく前向きな気持ちで読み終えることが多いが、辛辣かつ本質を突く本書は読者の心に爪痕を残すだろう。

「耳障りなはずだ」

 なお、本書は人生を成功させた著者が、低スペック女子に向けて上から目線で人生論を説くものでは全くない。著者は「長いまえがき」で自身の立ち位置を明らかにしている。

 「本書の著者は低スペック女子の成れの果てである」
 「本書の著者はブスで馬鹿で貧乏である」
 「本書の著者には、輝かしき幼年期も青春期も中年期もなかった。すべてが悪戦苦闘だった。本書の著者には、輝かしい老年期もないだろう」

 著者は、若い頃から自身の低スペックを何とかしようと自己啓発本を読み漁ってきた。しかし、「特に成果はない無意味な読書」を長年続けた末に「本を書く人間というのは、もともとスペックが高い」ことに気づいた。

 「現代日本には、おびただしい数の本が毎日出版されている。そこに本書の著者のような中途半端な馬鹿が書くものを加える意味はない。全くない!」としつつ、「何につけても中途半端な低スペック女子向き自己啓発本を誰も書いてくれないならば、私が書こう」という経緯で本書は誕生した。

 「長いまえがき」では、このように著者が自身の低スペックぶりを掘り下げて書いている。その上で、これでもかというほど読者に対しても厳しい言葉を投げかける。

 「ブスで馬鹿で貧乏なあなたは、ただでさえ不用心に無思慮に生きるはめになりやすい。そんなあなたが、それなりに世の中を渡っていくための大雑把な指針が、この本には書かれているのだから、耳障りなはずだ」
 「現実はいつも泥臭くダサくて哀しく矮小で貧乏くさくて意味不明だ。でも大丈夫。馬鹿でもブスでも貧乏でも、きちんと生きていれば、そんな現実を受け入れ愛することができるようになる」

「世の中は、意外と公平にできている」

 著者は「中年期」を「女性一般にとって、『オバサン』と呼ばれるようになることに耐え、それに慣れ、ついには何も感じなくなる道程でもある。」と定義している。なるほど、その通りだと思う。三七歳まではまだラクだったが、三七歳過ぎると言い訳ができなくなり、「中年期」はもっとも危機に満ちている時期という。

 「身も蓋もないことを言うが、人生の勝負は四〇歳になるまでには、ほぼ決まってしまう。二〇代や三〇代に、どれだけ頑張ったかの結果が出るのが四〇歳以降だから。(中略)大丈夫です。それでも生きていけます。あなたなりのゲームを粘り強く継続しよう。その覚悟をあらたにするのが、この中年期だ」

 例えば、東京で活躍しているような女性たちこそ、オバサンになったときの鬱屈は小さくないらしい、という。つまり、輝かしい青春期がなかった「ブスで馬鹿で貧乏」なあなたは、オバサンになっても喪失感は小さいのだから「よかったですね」というわけだ。

 「自分がブスで馬鹿で貧乏であることの逆説的値打ちを、これからもっと年齢を重ねるにつれて、あなたは知ることになる。世の中は、意外と公平にできている」

 なんとも独特な背中の押し方だ。著者は「読んでいる最中にむかついても、最後まで読んでください」と書いているが、むかついたり傷ついたりしないためには、文中に出てくる「あなた」に自分をピタッと当てはめるのではなく、半分重ねるくらいにして読むのがいいだろう。

 ただ、ここまで綺麗事一切抜きで真正面から人生論を説いてくれる書籍も人もなかなか出あえるものではない。実際に「馬鹿ブス貧乏」かどうかはさて置き、人生を深読み、先読みする生き方を教えてくれる貴重な一冊だ。

 

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