「チコちゃんの中の人」としておなじみの「キム兄」こと木村祐一さんが、メンタルクリニック恵比寿院長・医学博士の野村忍さんに「ストレスと思い込みでガチガチに固まった心と体を解きほぐす方法」を聞く――。
本書『キム兄、こころのなおし方を聞く――名医に教わるストレスとのつきあい方』(方丈社)は、お笑い芸人と心療内科医の対談という、ちょっと変わった切り口の一冊となっている。
野村忍さんは、1951年京都府生まれ。神戸大学医学部卒業。96年東京大学医学部心療内科助教授を経て、2000年早稲田大学人間科学部(現・人間科学学術院)教授、19年早稲田大学名誉教授。同年メンタルクリニック恵比寿を開院。専門分野は心身医学、行動医学、臨床心理学。産業医として長年の経験を持ち、現場に即したカウンセリングを行う。主な著書に『心療内科入門』(金子書房)、『情報化時代のストレスマネジメント』(日本評論社)などがある。
木村祐一さんは、1963年京都府生まれ。ホテルマン、絵画販売、染め物職人などを経て、23歳でデビュー。お笑い芸人としてテレビや劇場で活躍する傍ら、俳優、映画監督など幅広く活動している。ホテルマン時代から磨き続けた料理の腕前は芸能界イチとの呼び声高く、『キム兄&クックパッド つまみ越え』(主婦と生活社)などの料理本も手がける。
メンタルクリニックってどんなとこ? カウンセリングって何するの? ストレスでなんで、具合が悪くなるの? 世の中のちょっとおかしなことに鋭い視点でツッコむキム兄が、まだまだ身近とは言い難いメンタルクリニックを訪問し、「"自分"と、そこそこうまくつきあっていく方法」を探っていく。
野村 「現在、『5歳の女の子の中の人』として人気を集める木村祐一さんと心療内科医である私との組み合わせは、あまりにも異色で、最初はどうなることかと思いました」
たしかに、お笑い芸人と心療内科医の組み合わせには意表を突かれる。ただ、読んでいるうちにキム兄とチコちゃんが重なり、しっくりくるようになった。読者の気になることを、キム兄がグイグイ引き出す役割を担っている。
本書の目次は以下のとおり。
■PART1 キム兄、メンタルチェックを受ける
心療内科に行ったら、何するの?
■PART2 キム兄、こころと体について聞く
こころと体の不調、どっちが先に出るの?
■PART3 キム兄、ストレスについて考える
ストレスで病気になるの?
■PART4 キム兄、こころの健康法を探る
ストレスとどうつきあっていけばいい?
■PART5 キム兄、自分のトリセツをつくる
考え方のクセは変えられる?
キム兄と野村さんの対談が本書の大半を占める。各PARTの終わりにCOLUMN「野村先生、教えて!」があり、これが役立つ。多くの人が聞いたことはあっても詳しく知らないであろう「エゴグラム」「認知行動療法」「うつ病」「自律神経と呼吸」について、野村さんがポイントを押さえて簡潔に解説している。
全体をとおして、字は大きめ、写真・イラストも多く読みやすい。対談の和やかな雰囲気も伝わってくる。心を扱った本ではあるが、気軽に、気楽に読める一冊となっている。
例えば「精神科と心療内科の違い」を明確に認識している人は少ないのではないだろうか。野村先生によると、二つは「全然、別もの」だが、境目があいまいになっているという。精神科は「統合失調症やうつ病など精神的な病気を診るところ」、心療内科は「体に症状が出た場合に診るところ」という一応の線引きがあるという。
野村 「心と体は表裏一体で、不安や緊張から筋肉が凝って肩こりになったり、あるいは心臓がドキドキしたりとか、おなかを壊したりとかね。(中略)ストレスを取り除かないと体の病気は治らない。そういう人をなんとか治療しようというところから心療内科ははじまったんです」
もう一つわかりづらいのが「単なる不安とうつ病の違い」。うつ病になったとき必ず出る症状として「意欲がなくなる、やる気がなくなる、眠れない、食欲がわかない」を挙げている。不安感、緊張、過敏、ネガティブな考え、さらに胃の痛み、倦怠感、動悸、めまい、肩こりの状態になった場合、目安になるのはその期間という。
野村 「2週間以内に立ち上がれたら、まぁ、大丈夫。ただ、それ以上続くようだったら、すぐに受診してほしいですね」
キム兄は、50歳ぐらいから自分の性格がだんだんわかってきたという。
木村 「イラッとしても、『なんでこんなことを思うんやろう』とか、それが自分のデータ収集だって考えたらちょっと楽になるかもしれないって思うんです。(中略)自分で自分の"トリセツ"(取扱説明書)みたいなもんをつくってこうって考えてるんです」
例えば、向こうから歩いてきた人が不注意でぶつかってきたら、「アーユーオーケイ?」と言おうと決めている。自分が腹立つことがわかっているから、どんな反応をするかあらかじめ決めておくという。
野村 「いくつかのパターンを持っておいて、必要なときに自由に取捨選択できるのは大事ですよ」
最後に、ストレスの捉え方が180度転換する言葉を引用しよう。
野村 「人間が生きていくためにはストレスがないと生きていけません。ストレスがないと、人生、面白くもなんともないというか。(中略)ストレスをゼロにすることを考えるのではなく、うまくつきあっていくことが大切なんです」
木村 「先生は心療内科の先生だから患者さんのストレスをなくそうとしてはるのかと思ったけど、むしろ、多少はあったほうが改善すると言う。ストレスがないと、人生は味気ない。それはちょっと衝撃でした」
名医によるまさかの「ノーストレス・ノーライフ」という考え方。キム兄の軽妙な切り返し。「ストレスと上手につきあうヒント」を提示する本書は、しんどかった心をちょっと軽く、楽にしてくれるだろう。
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