うつから抜け出すにはどうすればいいか。本書『うつ消し漢方――自然治癒力を高めれば、心と体は軽くなる!』(方丈社)がアピールするのは「漢方」だ。何となく負担が少なくて、ゆっくり効きそうな気がする。出版社側も「依存の不安がなく、自然由来で安心」ということを強調している。
うつはすっかり身近な病気になった。自分がうつにならなくても、少し大きめの会社で管理職をしたことがある人なら誰しも部下のうつで、あれこれ相談を受けたことがあるに違いない。それほどまでに現代病となっている。
評論家として活躍している荻上チキさんも近著『みらいめがね』(暮しの手帖社)で数年前から「うつ病の治療を続けている」と公表している。症状について、こう書いている。
「心に『もや』がかかった状態で、気が晴れることがない。何もかもが億劫で、どんなに空腹でも、買い物に行ったり食事を取りに出かけたりする気力が湧かない。朝は特につらく、起きたり体を動かしたりすることが難しい。不安を覚えると手足が冷たくなり、小刻みに震え、動悸がする。雨の日はより気分が沈む一方で、夜になると症状は和らぐ。どうも天候にも左右されるようだ」
症状にはおそらく個人差があるだろうが、気力が落ち込んで前向きになれないというあたりは共通しているはずだ。東京など都市部ではあちこちに「メンタルクリニック」がある。 荻上さんは書いている。うつ病は「心の風邪」といわれるくらい、多くの人がかかりやすいが、治療といえば「風邪ほど簡単にはいかない」。
クリニックに行くと、簡単な診断を受けて薬を処方される。それが風邪薬のように直ちに効いて、鼻水が止まり、熱が下がれば嬉しいのだが、うつの場合はそうは行かない。さしたる効果があらわれず、何度も通うことになる。一回の診察時間も短くなり、本書では、「診察は5分程度」「話をきちんと聞いてもらえない」という患者の不満が掲載されている。
意地悪い見方をすれば、クリニックにとって患者は大事なお客さん。長期の服薬が必要なうつ患者は、長期に薬を買ってくれる良い客でもある。「それじゃ、少し薬を変えてみましょう」とかなんとか言って、長期戦に持ち込めば、医院経営的にはプラスになる。
患者が不安になり、他の医院でも診察を受けると、診断結果が違っていたりすることもある。同時に両方の薬を飲むこともできず、ますます患者は不安になる――そうした実例は、評者も身近なところで経験したことがある。
本書は、上記のように西洋医学のクリニックに行ったものの、好転しなかった人向けのガイド本といえるだろう。
著者の森下克也さんは開業医。久留米大医学部を卒業して浜松医科大心療内科で漢方と心療内科の研鑽を積んだ。著書多数。もともとは脳神経外科医だったというから、かなりの曲折を経ている。西洋医学と漢方のそれぞれの利点と限界をわきまえながら書いているので、落ち着きがある。
本欄では『うつ消しごはん』(方丈社)、『うつ病診療における精神療法――10分間で何ができるか』(星和書店)なども紹介済みだ。
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