食生活に気を配ることによって、「うつ」の症状が好転する――そう説くのが本書『うつ消しごはん―タンパク質と鉄をたっぷり摂れば心と体はみるみる軽くなる!』(方丈社)だ。
著者の藤川徳美さんは広島県内で心療内科のクリニックを開業する精神科医。これまでに『うつ・パニックは「鉄」不足が原因だった』(光文社新書)、『分子栄養学による治療、症例集』(Kindle版)なども出している。
精神科医として藤川さんは長年「スタンダードな治療」をしてきた。患者の症状を診断し、それに応じた薬を処方する薬物治療や心理療法、認知行動療法などだ。「しかし、こうした治療を行っても治らない患者さんがほとんどでした」。
病気が治ることを「完治」というが、うつ病などの精神疾患は完治することがなかなか難しいとされる。「寛解」というのが一定のゴールとみなされるという。どういうことかというと、薬で症状をコントロールできているが、薬を止められない状態のことだ。
「しかし、私はこうした一般的な精神治療には疑問を感じています」と著者は正直だ。寛解でよしとするのではなく、完治をめざした治療をするべきではないか、ということで栄養療法にチャレンジしてきた。「健やかに生きるベースとなる栄養をしっかり摂る」。これが藤川医師の治療の土台になっている。
本書では、どの成分が不足するとよくないか、いろいろ紹介されている。たとえばタンパク質。「抑うつ気分」はタンパク質の不足から来ていることが多いのだという。
さらには鉄分不足。とりわけ鉄と結合しているフェリチンというたんぱく質が重要だそうだ。日本の女性はこのフェリチン値が低い。特に月経がある時期の女性は出血で鉄分が流失するので、鉄不足が深刻だ。
欧米では日本の女性のような鉄不足がないという。鉄分を多く含む肉を日本人の3倍も食べているからだ。また、欧米を中心に50以上の国で、小麦粉に予め鉄分が添加され鉄補給策がなされている。メキシコではトウモロコシ粉、モロッコでは塩、フィリピンでは米、中国では醤油、東南アジアではナンプラーに鉄が添加されているという。
鉄は神経伝達物質であるセロトニン、ドーパミン作成の補因子になる。これらの減少は、うつ病が起きる原因の一つということで、著者は鉄分を重視する。
「精製糖質」についても手厳しい。白米、小麦粉、砂糖などだ。これらを胃に入れると、すぐに血糖値が上がる。空腹時に甘いジュースなどを摂るときも同じだ。
血糖値が上がると、インスリンが多量に分泌され、血糖値が下がる。すると、今度は血糖値を上げるアドレナリンなどの「ストレスホルモン」が分泌される。これらのホルモンを合成するためにビタミンB群やミネラルが使われて不足状態になる。これらが不足すると、今度は神経伝達物質の合成が滞る。その結果、うつやパニック障害を起こしやすくなるという。糖分過多から始まり、玉突き的にリンクしながら、うつに関係しているのだ。
このように摂取を心がけねばならない成分、控えなければならない成分の話が科学的に解説され、それをもとにどのような食生活が望ましいか、わかりやすく示される。
「コンビニ野菜の栄養はわずか」「全粒粉の小麦粉、イモ類等の根菜類はOK」「野菜ジュース、果物ジュースはNG」「鉄不足の人は甘いものを欲しがる」「女性はしっかりプロテインでタンパク質を補給」など、指導は具体的だ。藤川先生自身の「日々の食事とサプリメント」も公開されている。
メンタルクリニックに行って、単に薬をもらうだけの治療に物足りなさを感じている人は少なくないだろう。最終章には「栄養改善による症例集」も多数掲載されているので、参考になりそうだ。
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