その通り、と思うタイトルの本だ。『うつ病診療における精神療法――10分間で何ができるか』(星和書店)。17人の臨床医がそれぞれの経験をもとに、時間的な制約がある中で、どうやって診察や治療の効果を上げるかを語っている。
言外に、短時間で診るのは難しいというニュアンスがこもる。その中でどうすればいいか。書き手だけでなく読者もおそらく同業者。共通の悩みを語り合い、より良い解決策を模索しているようにも感じる。
素人考えで恐縮だが、医者の中でも精神科は特殊なような気がする。普通は病院に行くと、血液検査やレントゲン、心電図などの検査があって、それらのデータをもとにどこが悪いか診断していく。ところが、精神科では(行ったことがないので推測だが)、そうした検査ではなく、患者に対する問診、医者との対話の中で診療が進むようだ。
その意味では、精神科医には経験が要求される。それも単にたくさんの患者を診ればよいというものではない。患者の悩みの聞き役にもなるわけだから、カウンセラーのような人間力、信頼感が要求される。患者からすると、気持ちがつながらない医者とは話をしたくなくなるからだ。
そのようなことを考えながら本書を読むと、なるほどと思うところがある。多くの医者が初診患者に応対するときの心構えを書いている。初めて来院する患者は不安でいっぱい。「よく思い切って来てくれましたね」というような、患者の行動を肯定する言葉かけが大事だ。そして初診にかける時間。「少なくとも30~40分」、中には1~2時間という人もいる。確かに患者の方は積もり積もった悩みを話し、じっくり聞いてもらいたいわけだから、それなりの時間が必要だ。したがって、タイトルの「10分」というのは再診以降、一定の治療方針を決めてからの話だ。
初めて来院する患者でも、これまでに別の医者にかかっていた人もいる。話すうちに、過去の医師を批判し始めたりする。安易に同調してはならない、ということも書かれていた。初診時に、前の医者への批判をあおるようなことをすると、それはまた自分にもはねかえってきかねない。医者のやるべきことは、そうした患者の怒りのエネルギーを、本人の生活習慣を改善させる方向に向けることだと説く。
「うつ」を訴える人は、パワハラ、いじめ、家族関係などが引き金になっているケースも少なくない。そうした要因にどう対応するか。悩ましい問題だ。ある医師は書く。「すべてを杓子定規に断るのはよくないが、原則として『民事不介入』とする」。弁護士や労基署など専門の人がいるので、そちらで相談してほしいと。
普通の医者はすぐに薬を出すが、「うつ」を扱う精神科ではそこが難しい。「薬は回復を後押しする補助手段です」「薬だけでなく日々の取り組みが大きな力になります」「あなた自身の力がとても大切なんですよ」。投薬に添えて、患者自身も治療に関わるのだ、という主体的な気持ちを持ってもらうことを強調している医師が目立つ。
本欄では『精神障がいのある親に育てられた子どもの語り』『死を思うあなたへ』なども紹介しているが、「心の悩み」については読者の関心が高い。
本書は『日常診療における精神療法:10分間で何ができるか』に続く「10分間シリーズ」第2弾。医師向けの本と思われるが、医師の苦労や本音も率直に記されており、患者自身や家族が読むのも良いように思う。
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