人気ブロガーで作家・個人投資家の山本一郎さんが『文春オンライン』で連載した文章をまとめたのが本書『ズレずに生き抜く』(文藝春秋)だ。
一般財団法人情報法制研究所上席研究員として、IT技術関連のコンサルティングの仕事もしているので、企業や働く人の動向にも詳しい。
仕事観、人生観、企業観、世代観、結婚観、時代観のズレをどう認識し、生きていったらいいのか。もとがオンライン連載ということもあり、山本さんの筆が冴えわたる。
たとえば、仕事の項で、ベテラン社員をうまくコントロールするには、ここまで具体的に指示しなければならない、という話。
「ベテランの扱いがうまい桜井君(仮名)の指示の仕方」として、こうある。
「今週中にこことここにアポを取ってヒアリングしてきた内容をまず概要に書き下ろしてください。そこから業界データとの比較で利益水準との乖離を見てから、業務分析にとりかかれるようなシートを○日までに仕上げていただきたいのです」 「分からなければ、昼でも夜でも遠慮なくメッセンジャーに質問投げておいてください、必ず返答しますから」とフォローする。
「任せても大丈夫そう」と思ってしまうのが負けの原因だとも。
プロジェクトが上手くいかないプロセスには共通性があるという。経営者が思いつきでプロジェクトを指示したり、現場への介入が酷かったりする。ノルマだけブレイクダウンしてくる上司が多く、誰も完成形をイメージできない。会社員「あるある」話だ。
「好き」を仕事にするのがベスト、と言う嗜好至上主義者へも一言。果たしてそうだろうかと。我慢する生き方が簡単に否定されていいのか、と書いている。この嗜好至上主義者の本を本欄でも紹介したことがあるが、誰もが彼(あえて名は秘すがIT系と言えばお分かりだろう)のようにはなれないと思う。「私たちの9割9分9厘は、何者にもなれない」のだ。「右肩上がりの思想からの脱却」と「下り坂を見据えた秩序ある撤退戦」の時代を私たちは生きている、という著者の考えに共鳴した。
硬い話ばかりではない。結婚についての例え話に笑ってしまった。評者の友人をつい思い浮かべたからだ。「このこだわりを容認してくれる女性としか結婚したくない」という男性だが、以下のようなことを繰り返している。
「ありのままの自分を受け入れてもらうために必死でガンプラの説明をし、好きな漫画の良さを力説し、過去に閲覧したアニメやダウンロードしたエロゲーのストーリーを長々と語りかけるのは、99.9%の女性からすればドン引きされる行為だと気づいていないのでしょうか」
ネットの黎明期から「切込隊長」のハンドルネームで、切った張ったの論戦を生き抜いてきた論理と筆力の人である。本書もうなづきながら読了した。
「しなくてもいいことをしない」ことが一番大事、という著者の人生訓にも納得。
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